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玄人らしく

2014-01-25 08:00:00 | 編集手帳
1月23日 編集手帳

将棋の大山康晴十五世名人は生前、
よく語ったという。
「得意の手があるようじゃ、素人です。
 玄人にはありません」。
大駒の飛車角から小駒の歩兵までを自在に使いこなせないで、
プロ棋士は名乗れまい。

分野は違うが、
かつて米国の国防長官を務めたドナルド・ラムズフェルド氏も“得意な手”に頼る政策手法を皮肉られたことがある。
「工具箱にハンマーしかないと、あらゆる問題が釘(くぎ)に見えてしまう」のかと
(ボブ・ウッドワード『攻撃計画』)。

一軒の家を建てるにはノコギリも使えばノミやカンナも使う。
金づちしか入っていない工具箱の大工さんには誰しも、
大事な我が家の施工を頼みたくはなかろう。

都知事選がきょう告示される。
首都の課題は「五輪」の釘だけではないし、
ましてや「原発」の釘ではない。
ここは玄人らしく、
社会保障の問題を鋭く抉(えぐ)るノミや、
防災の要所を突くキリの研ぎ具合も競ってもらおう。

〈山師の玄関〉という言葉がある。
実質がなくて、
外観ばかりを立派に飾ることを指す。
“得意な手”のスローガンで玄関を飾り立てて、
あとはおざなりの安普請は願い下げである。
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