12月4日 編集手帳
草野球の打席に向かいながら、
手にしたバットに「さあ、行くぞ」とささやく。
買った宝くじを撫(な)でて、
「頼んだよ」とつぶやく。
人が命なき無生物に語りかけるとき、
心には何かしらの夢が宿っているようである。
その姿は見えなくても、
「達者でな」と冬空を仰いだ人もあろう。
きのう、
小惑星探査機「はやぶさ2」が打ち上げられた。
皇后陛下のお歌にある。
〈その帰路に己れを焼きし「はやぶさ」の光輝(かがや)かに明かるかりしと〉。
今度の2号が無生物のような気がしないのは、
わが身を滅ぼして探査の使命を果たした先代のけなげな最期が人々の琴線に触れたからだろ う。
はやぶさ2は太陽系や生命の起源に迫るべく、
6年がかり、
往復52億キロ・メートルを旅して小惑星から岩石を持ち帰る。
〈天地(あめつち)の 神も助けよ草枕旅ゆく君が家に至るまで〉(万葉集、巻第四)。
遠くから無事を祈るしかない。
帰還する2020年暮れといえば、
東京五輪の余熱さめやらぬ頃である。
日本はどんな姿になっているだろう。
折しも、
それを占う衆院選のさなかである。
「達者でな」と送り出した空から、
「あなた方こそ」と声がする。