12月14日 NHK海外ネットワーク
和食は世界各地で日本の大使が要人を公邸に招いてもてなす際の重要な手段となっている。
大使が振舞う和食を調理する人たちは「公邸料理人」と呼ばれている。
大使に付くいわばお抱えの料理人で「味の外交官」とも呼ばれている。
公邸料理人は現在世界に約200人いるが
日本人のなり手が足りず約30人は外国人である。
ネパール カトマンズの日本大使公邸に地元の有識者を招いて開かれた晩餐会。
意見を交わし人脈を築く外交の重要な場である。
ゲストに出されたのは和食のコース料理。
秋に咲くヒマラヤ桜の花が添えられ季節感も表現されている。
作ったのはタイ人の公邸料理人。
拍手で迎えられた。
「サンキュー ラブリーフード!
デリシャス!」
(小川正史ネパール大使)
「みなさん 非常に喜んで帰る。
公邸料理人は外交活動という面でとても力になってくれている。」
ピトゥーン・チャイヤサットさん(36)。
公邸料理人は食材の調達から調理まですべてを任される。
ピトゥーンさんは5年前に行程料理人となりベトナムやパナマでも腕を振るってきた。
生活の厳しい国に赴く公邸料理人に手を挙げる日本人は年々減り続け
いまやピトゥーンさんのような存在は欠かせなくなっている。
日本とは同じ食材が簡単にそろうわけではない。
大葉など和食に欠かすことのできない食材は自ら栽培する。
細やかな包丁さばきで松葉を表現し盛り付けていく。
(公邸料理人 ピトゥーン・チャイヤサットさん)
「季節・美しさ・味
すべてを表現してこそ日本料理といえます。」
ピトゥーンさんが本格的に和食を学んだのは
日本の外務省がタイで開催した公邸料理人を養成するための講習会だった。
外務省はこうした講習を受けた料理人を公邸料理人の候補として各国に赴任する大使に紹介している。
講習会が開かれているのは世界でタイだけで
これまでに72人のタイ人の公邸料理人を輩出している。
タイの首都バンコク。
多くの日系企業が進出し日本食レストランが軒を連ねている。
タイ国内に2000軒以上あると言われ優秀な料理人を見つけやすい。
日本料理店で働きながら行程料理人を目指しているタワット・ピナサーさん(27)。
公邸料理人になれれば給料は今の2倍になり和食の料理人として高いキャリアを築くことができる。
タワットさんは今回 外務省の講習会に参加した。
仕事の合間に週5日毎日3時間 和食の手ほどきを受ける。
出汁の取り方や包丁の研ぎ方などあらためて基礎から学ぶ。
日本料理店で8年のキャリアがあるタワットさん。
しかし講習会では戸惑う場面も多くあった。
そのひとつが盛り付け。
きれいに盛り付けようとするあまり時間をかけすぎてしまう。
(タワット・ピナサーさん)
「すごく繊細できちんとしている。
これまでの自分のやり方とは全然違う。」
3か月に及んだ講習の最終日。
大使や日本人の料理人などを招いていわば卒業試験が行われた。
協力して料理を作っていく受講生たち。
タワットさんも課題だった盛り付けを必死にこなす。
受講生たちの料理は「味が濃い」「コシが無い」などと厳しい批評を受けた。
しかし期待も寄せられている。
(佐藤重和タイ大使)
「まず勉強して基礎を固めスタートしてもらう。
短期間で身につけるのは難しいと思うが。」
講習が終わりタワットさんたちはそれぞれの店に戻って腕を磨きながら世界中に赴任する大使館からの誘いを待つ。
(タワット・ピナサーさん)
「料理に失敗したら客との関係にひびが入るかもしれない。
大使のために料理をするのは難しいがきちんとできるよう努力する。」
外務省の講習会にはだれでも参加できるわけではなく
協力している現地の日本料理店からの推薦が必要となる。
参加者は優秀な人材を探している大使らとの面接や実技の試験などをパスして
ようやく公邸料理人になることが出来る。