12月16日 編集手帳
将棋の羽生善治名人に伝説がある。
対局で相手が悪い手を指すと、
不機嫌そうな顔をするという。
普通は「しめしめ」とほくそ笑むところだろう。
相手の悪手によって転がり込む勝利から美しい棋譜は生まれない、
というのが“不機嫌”の理由らしい。
かつてイチロー選手が語ったことがある。
「自分の打撃がベストで あるためには、
相手投手のベストも必要になります」と。
政府・与党が改革を成し遂げるとき、
いちばん必要なものは何でしょう?
問われて、
英国の故・サッ チャー元首相は言下に答えている。
「政権交代が可能な、
良い野党の存在です」と。
分野はそれぞれ違えども、
第一人者の言動はどれもよく似ている。
その知恵に従えば、
日本再生のカギを握っているのは選挙で大勝した自民・公明の与党勢ではなく、
ひょっとすると野党第1党の民主党かも知れない。
〈長き夜をたゝる 将棋の一(ひ)ト手哉(かな)〉(幸田露伴)。
準備は不足。
対案は不在。
党首は落選。
“一ト手”どころでない悪手を連発した記憶に、
何十夜、
何百夜もだえてもいい。
悩み抜いて、
とにもかくにも早く立派に育ってもらわねば困る。