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最後のバスを降りるまで

2019-06-23 07:00:00 | 報道/ニュース

 

5月29日 読売新聞 編集手帳

 

 子供のころはなぜか、
時の流れを遅く感じる。詩人の高橋順子さんはその感覚を「雨つぶ」に例えている。

<わたしたちの時間は
 空の中に生まれた喜ばしい雨つぶ
 のように始まるのではないか…
 新品のまんまるの雨つぶはまだ
 きみの空に浮かんでいて落っこちそうもない>(「子どもの時間」)。
幼い子には退屈なほど悠長な時の流れでも、
親には愛情を注いでも注ぎきれないほど早く過ぎる時間かもしれない。

そんな大切な時を凶刃が切り裂いた。
川崎市でスクールバスを待つ児童らを刃物を持つ男が襲った殺傷容疑事件である。

悲報に胸がつぶれる。
私立小6年栗林華子さん(11)と、
子供を送りに来ていた外務省職員小山智史さん(39)が亡くなった。
子と親がどれほど幸せな時間に生きているか、
つゆほども知らない人間の犯行に違いない。

先の詩に次の一節がある。
<(雨つぶが)ゆらゆらしだすのは
 きみが最後のスクールバスから
 降りるころだろう>。
思春期の始まる頃合いと思われる。
栗林さんは最後のバスにもう乗れない。
小山さんもわが子の成長を見守ることができなくなった。
無念だろう。

 

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