5月30日 世界のトップニュース
4月にニューヨークで開かれた読書イベント。
話しているのは日系アメリカ人の作家ナオミ・ヒラハラさん。
ヒラハラさんは世界中のミステリー作家が目指すエドガー賞を2007年に受賞。
そして今年もノミネートされた。
小説の題名は「ヒロシマ・ボーイ」。
主人公は子どものころ広島で被爆した日系アメリカ人の庭師。
ロサンゼルスに住む主人公が広島に50年ぶりに戻った際
遭遇した殺人事件の謎を追うという筋書きである。
ヒラハラさんは同じ主人公のシリーズ作品を7作発表。
最新作の「ヒロシマ・ボーイ」では初めて広島を舞台に原爆をテーマに据えて小説を書いた。
(作家 ナオミ・ヒラハラさん)
「私はアメリカ生まれのアメリカ人ですが
広島のことは私に引き継がれているのでとても重要だと考えています。」
ヒラハラさんは両親と祖母が広島で被爆した被爆2世である。
スタンフォード大学を出たあと日系の新聞の記者を経て作家になった。
家族から被爆体験を聞いて育ったヒラハラさん。
特に印象に残っているのが祖母の体験である。
1945年8月6日
原爆が投下されたあと祖母は爆心地近くで行方不明になった祖父を探したが見つからなかった。
馬のものにも見えた骨を遺骨として受け取ったという。
一方父は学徒動員で広島駅にいたときに被爆。
しかし父が被爆体験を語ったのは6年前
亡くなる間際になってからだった。
(作家 ナオミ・ヒラハラさん)
「父が原爆で友だちが死んだことなど話し始めたので大変驚きました。
抑えていた記憶が死の間際に吹き出したのです。
私に政治てえ生糸はありませんが
被爆の話を社会に伝え
人々に考えてほしいのです。」
被爆体験を長らく語らなかった父。
ヒラハラさんは父のイメージを小説の主人公に重ねた。
父と同様 口数は少なく
被爆体験について語らない。
その主人公は今回の作品の中で
広島で殺人事件の謎を解くうち被爆の記憶を抱える人たちに出会う。
原爆の影響で我が子を亡くした高齢の女性や
差別を受けて結婚できなかった女性。
こうした人たちと出会うなかで主人公にも被爆の記憶がよみがえってくる。
ヒラハラさんは今も原爆が人々に深い傷を残していることを小説に描いた。
アメリカではいまだに過半数の人が“原爆投下は正当だった”と考えている。
広島の原爆に触れることが政治的な論争になりかねないアメリカ社会。
ヒラハラさんは
アメリカ人を主人公にしたミステリー小説という形でなら原爆の被害に関心を持ってもらえると考えたのである。
(作家 ナオミ・ヒラハラさん)
「親戚にも“書かない方がいい”と言われましたが
私にはコミュニティと深い絆を持っている日系アメリカ人の自負があります。
意図的に主人公を父のようなアメリカ人被爆者としました。
そうすればアメリカ人にも受け入れられると思ったのです。」
作品はエドガー賞にノミネートされ一定の評価を得た。
受賞は逃したがヒラハラさんは手ごたえを感じた。
(作家 ナオミ・ヒラハラさん)
「メインストリームの舞台で認められて本当にうれしく誇りに思います。
広島への原爆投下はアメリカでは論争になるテーマですが
このように認識されたのはミステリー小説の力だと思います。」
ヒラハラさんのもとには続編を書いてほしいという声も届いている。
それに応えるためにも
今後も広島について書いていきたいという思いを強めている。
(作家 ナオミ・ヒラハラさん)
「核兵器の被害はいつ起きてもおかしくありません。
小説のレベルを超えて
ここアメリカでも核兵器問題に真剣に取り組んでほしいです。」