5月30日 国際報道2019
今年1月に就任した元軍人のボルソナロ大統領は
その過激な発言の数々から“ブラジルのトランプ”と呼ばれ
長く続いた左派政権の政策を転換して国のあり様を大きく変えようとしている。
サンパウロの中心部の富裕層が暮らす高級マンション。
家賃は日本円で月に30万円以上。
ボルソナロ大統領を支持しているのはこうした富裕層や中間層の人たちである。
貧しい人たちが多く住む“ファベーラ”と呼ばれる貧困地区では
ボルソナロ大統領の政策を批判している。
こうした地区では殺人や強盗といった凶悪犯罪のほか犯罪組織同士の抗争も多発している。
悪化の一途をたどる治安を改善するとして
ボルソナロ大統領はいま過剰ともいえる治安対策に乗り出している。
犯罪が多発するブラジルでは
2018年殺人事件による死者数は7万人を超え
増え続けているとされている。
(ブラジル ボルソナロ大統領)
「国民の正当防衛の権利を保障するため
大統領としてこの武器を使う。」
ボルソナロ大統領は就任直後
治安対策として銃規制を大幅に緩和する大統領令に署名。
銃で自らの身を守るよう訴えた。
こうしたボルソナロ大統領の発言を受けて自衛のために銃を所持する市民が増加。
店に押し入った強盗が銃で店長を脅して金を奪おうとしたところ
レジの女性が強盗に向って銃を発砲。
さらに店長も銃を取り出して威嚇。
強盗はこのあと逮捕された。
サンパウロの警察では威嚇のために殺傷能力の高い大型の銃を持ち歩くようになった。
現場では銃撃戦で犯罪者を射殺することも珍しくないという。
その一方 市民が警察に誤って射殺される事故が急増している。
5月にリオデジャネイロで行われた警察官の暴力に抗議するデモ。
警察の行動を監視するNGOは
2018年警察官の発砲で5,000人余が亡くなり
多くは罪のない市民だったと主張している。
ボルソナロ大統領の治安対策により犠牲者がさらに増えるのではないかと懸念されている。
(息子を誤射で亡くした女性)
「私の息子は生き返りません。
ほかの母親には同じ思いをしてほしくありません。」
もう1つボルソナロ大統領が取り組み議論を呼んでいるのが年金改革である。
ブラジルでは労働組合の力が強く
公務員などには手厚地年金がある。
年金給付は国の財政支出の40%以上を占めるまでに拡大。
財政赤字は増え続け
もはや破綻寸前ともいわれている。
ボルソナロ大統領は年金に大なたを振るい
支給開始年齢の引き上げや支給額の減額に踏み切ろうとしている。
(ブラジル ボルソナロ大統領)
「年金改革は国の財政が破綻しないよう健全化するための基盤だ。」
しかし減額の対象となる公務員などは年金改革に強く反発。
5月サンパウロの中心部に20万人以上が集まり年金改革反対を訴えた。
(デモ参加者)
「彼の考えはブラジルの未来のためにならない。」
「年金改革は労働者層から搾取し
銀行や企業の利益を増やすためのものだ。」
2年前まで公立の幼稚園で働いていたフェレイラさん(52)。
公務員は25年以上働き50歳になったら満額が支給される。
フェレイラさんは50歳になった誕生日に幼稚園を退職した。
現在は退職時の月給と同じおよそ40万円を毎月年金として受け取っている。
いま公務員の間では
年金の開始が55歳へ引き上げられる前に早期に退職する人が相次いでいるという。
(元公務員 フェレイラさん)
「大統領の改革案で多くの教師たちが早期退職の手続きを急ぎました。
ボルソナロ大統領の改革案には反対です。」
ボルソナロ大統領は
手厚い公務員の年金など多くの国民がずるいと感じている問題にズバッと切り込むことで高い人気を得ている。
最新の世論調査によると支持率は60%程度を維持している。
経済が停滞し閉塞感が漂うなか
変化を望んでいた国民の前に現れたのがボルソナロ大統領だったのである。
一方大統領の過激な言動には弱者やマイノリティーを軽視する姿勢も見え隠れしている。
こうした姿勢は地球規模の問題にも影響を及ぼそうとしている。
4月首都ブラジリアに数千人の先住民が集結し大規模なデモを行った。
求めたのはボルソナロ大統領が打ち出した先住民保護区の開発の中止である。
(参加者)
「先住民族の母なる自然を破壊する鉱業や農業のビジネス
水力発電所に反対する。」
多くの先住民が暮らすのは世界最大の熱帯雨林アマゾン地域。
その面積は550万平方km。
先住民保護区はその2割以上を占めている。
先住民保護区は開発が禁止されてきたため
残された熱帯雨林が二酸化炭素を吸収し地球温暖化の抑制にも大きな役割を果たしている。
ところがボルソナロ大統領はアメリカのトランプ大統領と同じように温暖化対策に後ろ向きな姿勢である。
就任後 環境保護当局の予算を大幅にカット。
先住民保護政策の担当機関も格下げした。
そして経済活性化のために森林を伐採し
鉱物資源の採掘や発電所の建設などを認める方針を打ち出したのである。
(ブラジル ボルソナロ大統領)
「鉱業や農業などアマゾンで採れるものはたくさんある。」
いま先住民たちは窮地に立たされている。
アマゾナス州ワイキル。
この集落には17家族108人が暮らしている。
彼らの暮らしは今もほとんどが自給自足。
毎日のように森に入り食糧などを調達する。
「これはクンナンの木です。
皮をお茶にしたり水に入れて飲む。
体が痛い時にとても効く。」
森の恵みを糧に伝統的な生活を続ける先住民たち。
熱帯雨林が破壊されれば暮らしていけなくなると考えている。
(サテレ・マウェ族 長老)
「森がなければ生きていけない。
大統領が私たちの代わりに決める権力はない。」
さらに先住民たちはいま差別や偏見にも不安を募らせている。
ボルソナロ政権の発足以降
先住民保護区を守る事務所への襲撃や嫌がらせが相次いでいる。
先住民たちは開発を進めようとする政府から森を守らなければならないという。
(サテレ・マウェ族 長老)
「私たちの先祖は森を守るために戦って死んでいった。
今は私たちが戦い続ける時だ。」
さらに地球環境への影響も懸念されている。
専門家は
ボルソナロ大統領が先住民保護区の開発を許可し熱帯雨林の伐採が進んだ場合
地球全体の温暖化が加速し生態系に取り返しのつかない影響を与えかねないと警告する。
(国立アマゾン研究所)
「今の政権は破壊的なシナリオを書いている。
森林が破壊され続ければ先住民保護区は危機にさらされる。
アマゾンの森林破壊が30%に達したら世界に大きな影響を与えるだろう。」