子どもがまだ幼い頃は、親が子どもに何か質問すると、子どもはそれに答えるというやり方で会話は成立します。
たとえば「今日のマラソン大会どうだった?」と親が聞くと、子どもは「楽しかった。寒かったけど、三番になれたし・・・」というように会話は続いていきます。
ところが中学生にもなると、「うん、まあまあ」とか「別に・・・」と、答をそらすような返答となり、素直に答えなくなることも増えるようです。親にすれば何か頼りなく、手応えを感じられず、会話にならなくなります。
このようなとき親は、子どもから必要な情報を聞き出すやり方では、子どもは満足しなくなってきていると、とらえるべきでしょう。
子どもが思春期になる頃、子どもはより多くを求めるようになります。ただ聞いてもらうだけでは満足できず、自分もいろいろなことを聞きたいと思っているのです。
親が思春期の子どもに何かを教えたり、子どもを動機づけたりする方法の一つは、親が自分を語ることです。
子どもに対して、「あなたは~すべき」をいうより、親自身が自分としての気づきや夢を語るとき、または自分の仕事を語るという働きかけ(=ストロークといいます)をするとき、子どもは興味深くそれをキャッチしようとします。
大切なことは、成功話を語らなくてもいいということです。
「本当はこんな仕事をしたかったけれど、なぜそれをあきらめ、今の仕事に就いているのか」
「だけど、こんなときやり甲斐があるんや」
など親が今を生きているという生の姿(=人生)を語るのです。
心が不安定な思春期の時期に、子どもはさまざまな試練に出会います。目の前にそびえる悩みの壁に立ち止まってしまいそうになります。壁に背を向けず、あきらめずにチャレンジして、乗り越えていくには、親や教師の心の支えが必要になります。その支えの働きかけは、おとなの方から子どもに向かってアプローチをかけるのです。
この時期、子どもは親から離れようとしているのです。それが思春期です。親からアプローチをしないと、「あのね、今日学校でね・・・」などと話してはくれません。
そのアプローチは、親が自分ことを語ることでしか子どもには届かないのです。
自分のことを語ることは相手の心をひきつけます。そのとき思春期の空白になっている心を、ぐっと引き寄せることができま
す。この繰り返しが、子どもを支え、自らの力で壁を乗り越えていく力とな
るのです。