箕面市の小中学校では、いまから約30年前に、学校の教員と大学の研究者が協働して、子どもの学力向上に影響する要因が何であるかを共同研究しました。
その結果はいろいろと明らかになりましたが、中でも、当時、いちばん注目された概念が「自尊感情」でした。
「自尊感情」は、自尊心と解される場合がありますが、両者は異なります。
自尊心は、いわゆるプライドであり、ほかの人と比較して、自分は優れているというように、一般的な価値観から自分が賞賛されることに満足しているという感情に基づいています。
しかし、自尊感情はいわゆる「自分のことが好き」という感情です。
おおざっぱに言えば、自分が好きな子は、学力が向上しやすいことが、学校現場と研究者の間で、データをもとに明らかになったのです。
自分を好きとは、自分の長所も短所も、好きな点もきらいな点もすべてふくめ、まるごといまの自分が好きであり、自らを肯定することです。
これが自尊感情です。
自分を好きな子は、学習で努力した成果が出なかったときでも、「自分の努力が足りなかった。次はがんばろう」と感じます。
学習の意欲が萎えることはありません。
しかし、自分のことが好きでない子は、「どうせわたしなんか、やってもできないし」と自分を否定しがちです。
そして、学習に向かわなくなり、自信と意欲をなくし、ますます自分を好きでなくなります。
こうなると、負の連鎖になり当然、学力向上が望めなくなります。
以上のことは、現場の教員は長年子どもと接するなかで、感覚的に感じていたのですが、研究者によりその感覚が理論づけされたのでした。
じつは、この自尊感情は、学力向上にとどまりません。
自分に自信がある子は、たとえ困難なことに出会ったとしても、意欲を失わず、乗り越えていきます。
自分に自信のない子は、揺るぎない自分が定まらないので、うまくいかないと、他人のせいにすることもあり、自分に向き合わなくなることもあります。
三中の子には、ありのままの自分が好きで、まわりの人を愛して、まわりの人からも愛され、自分の力を社会や世の中に役立てようとする人になってほしいのです。
たとえば、職場体験で、いきいきとした子どもの態度や表情をみて、「仕事について学習したね」「将来の進路に役立つね」と喜んでいることも大事です。
加えて、「うまくいかないこともあったけど、自分の力を社会にいかせるという自信をもてたね」というとらえかたが、自尊感情に注目した子どもへのねぎらいのあり方です。