長文なので勝手ながら二回に分けて転載させてもらいます。
(読者の声1)
自動車評論家の池田直渡氏は日経ビジネスにも連載している。初回は2021年1月21日の『菅総理の「電動車100%」をファクトベースで考える』という記事。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00240/011800001/
菅義偉総理は「2050年にカーボンニュートラルを実現します。環境技術で日本を経済成長させます」と言っただけなのに、なぜかガソリン車廃止となり大騒ぎとなった顛末を記す。筆者は経産省の意図的なリークとメディアの不勉強の合わせ技であろうと見ている。
池田直渡氏は反EV論者、内燃機関愛好家ではなく、「クルマはいずれほとんどEVにならざるを得ない」と考えているそうである。ただし先進国で色々うまくいっても2040年代くらいで半分程度と読んでいる。
現在の欧州のCO2排出規制は企業ごとの平均であり、トヨタのようにハイブリッドで規制をクリアできればスポーツカーも投入できる。そうでなければ排出権取引となる。
北米ではZEV(Zero Emission Vehicle )規制があり、一定比率はゼロエミッション車を造る必要がある。中国では2つの規制が併存する。
連載4回目は『欧州のEV戦略は「ブラック魔王」で読み解ける』という記事。ブラック魔王とは昔のアメリカアニメ「チキチキマシン猛レース」に出てくる悪だくみをしては自分が酷い目に遭うキャラクターである。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00240/032500004/
日本は1970年代から排ガス(NOx)規制が強化され、80年代には光化学スモッグもほとんどなくなった。ところが90年代に入ると京都議定書でおなじみのCO2削減が問題とされるようになり日本に不利な数字となる。基準を作るのはいつも欧州で押し切られた格好である。
その欧州はCO2削減ばかりでNOxや粒子状物質(PM particulate matter)には無関心だった。そのためエッフェル塔が霞むほど大気汚染がひどくなり、打ち出したのがクリーンディーゼルであった。晴天時(2012年)と汚染が酷い日(2014年)を比較した写真がある。
https://afpbb.ismcdn.jp/mwimgs/7/2/810x540/img_726aa9ea1aba4fb933d8d982fd698d29129787.jpg
日本では石原都知事時代にディーゼル車の規制が行われ1999年に「ディーゼル車NO作戦」がスタートし、規制は2003年10月から実施された。欧州では2014年9月からやっと日米並みのEURO6規制となるが、技術を積み上げてこなかった一部のメーカーは急激な規制強化(NOxで6割減)に追いつけなかった。
そこで、不正なプログラムで測定結果を誤魔化した。これが、2015年に明るみに出たフォルクスワーゲン(VW)のディーゼルゲート事件である。
欧州は環境意識が進んでいるのではなく、日本より40年も遅れているのだ。
頼みの綱だったディーゼルを、自らの不正でお家断絶状態に追い込み、困り果てた欧州は、本当はハイブリッド車(HV)に進みたかったのだが、こっちはトヨタの特許で身動きが取れない。やむを得ず、育成段階にある次のエースを緊急登板させた。それがEVだ。
現状ルールでは、EVはCO2排出量ゼロで、対するHVは良くて1キロ走行あたり70グラムを切るくらい。普通に考えれば満点のEVのほうが優秀だが、補助金付きでも売れない。満点戦術でEVを作ったVWは約130億円の罰金を支払い、まさに手段を目的に先行させた結果となった。
一方、トヨタは満点こそ取れないものの、2020年規制では平均点以上のHVを主要マーケットで販売台数の4割から5割も売ってCAFE規制をクリア、「この成績なら、台数が出ないスポーツモデルが足を引っ張っても平均値に影響なし」とばかりに、涼しい顔でスープラやヤリスGR4などのスポーツモデルをリリースする余裕っぷり。
(PB生、千葉)
「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和五年(2023)5月23日(火曜日)
通巻第7760号 より