「白兎海岸」と呼ばれる砂浜の海岸から低い砂丘を上り切った辺り。白兎神社は海辺の見張りのようにある。
海岸(海を越えて?)で大国主の兄弟である八十神(多くの神、の意)に酷い目にあわされた白兎が大国主によって助けられたという話は、みんな知っている。
しかしその後、八上比売の情報を伝えたり、大国主の命を救ったり、と、これが本当にあの八十神にいじめられたか弱い存在だったのかと思うような大活躍をする。しまいには白兎大神と称され祀られることになる。
この辺になると日本人でも知らない人が多いかも。
書評 BOOKREVIEW
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中国、ロシア、北朝鮮のスパイから、いかに貴重な情報を守るか
敵のスパイを欺き、無力化するために何が必要か
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上田篤盛、稲村悠『カウンターインテレイジェンス 防諜論』(育鵬社、発売=扶桑社)
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日本はスパイ天国。スパイ防止法がないので、敵側スパイは跳梁跋扈、やりたい放題。
この無法とも言える情報筒抜け状態を憂慮する米英は、たとえ日本が同盟国といえども、機密情報の共有はない。
スパイ防止法が成立しないのは「敵の代理人」が日本にうようよ蠢いているからである。
そこで保守論壇では、近代戦での明石元二郎の諜報活動や陸軍中野学校のエリート、大川塾などの壮士、満州事変以後の大陸浪人の活躍などを大書特筆するわけだが、ちょっと待った。
日本は歴史はじまって以来、こうした方面でも本能的行動、つまり状況の把握と敵情報の通信などに工夫があったのである。
評者(宮崎)は日本史開闢以来「最初のスパイ」はオオクニヌシノミコトが因幡の白ウサギを救った神話に求める。白ウサギは求婚にいく兄弟達の行状を前もって視察することを任務とした八上比売(ヤカミヒメ)側のスパイだった。
神武天皇が肇国した朝廷が皇統後継をえらぶに際して、日向からやってきた神武先妻アヒラヒメの子タギシミミが反乱を企図した。その危機を和歌に託して知らせたのは神武皇后だったイスケヨリヒメだった。
狭韋河よ 雲起ちわたり 畝傍山 木の葉さやぎぬ 風吹かむとす
畝傍山 昼は雲とゐ 夕されば 風吹かむとぞ 木の葉さやげる
母の和歌の意味を悟った兄弟のなかで次兄の神沼河耳命が先制攻撃でタギシミミを成敗し、以後、建沼河耳命(アケヌナカワノミコト)となのった。第二代綏靖天皇である。情報によって危機を救った逸話こそ、スパイ戦争の本質を物語っている。
本書のまえがきにこうある。
「情報化社会において情報は武器であり、戦力である。情報を収集し活用するだけでなく、情報を守ることができなければ、混沌とした時代において国家や企業は生き残ることができない。
日本は、米国、中国、ロシアという世界大国に囲まれた厳しい地理的環境にあり、資源の大半を海外に依存している。さらに、戦後憲法による戦争放棄の制約もある。このような状況下で、日本が国際社会で生き抜くためには、かつての日本陸軍の情報参謀だった堀栄三が指摘したように、「ライオンではなくウサギの戦法」を採用し、牙や爪よりも耳を重視する必要がある。
その耳とは、積極的な海外の情報収集に長けているだけでなく、諸外国が日本に対して行っているスパイ活動や工作活動に関する微細な情報も見逃さない高度なセンサーを指す。つまり、防諜リテラシーがいかに重要かを常に意識し、その重要性を啓発していくことが求められているのである」。
政治学の基盤であるインテリジェンス、カウンターインテリジェンスの近年の実例や各国の歴史を総覧し、総合的に情報戦争を考える際には必読の一冊と言える。
「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和六年(2024年)8月1日(木曜日)
通巻第8350号 より