CubとSRと

ただの日記

書評2篇 その1

2024年08月15日 | 心の持ち様
 日本人の中国理解は日本人だけにしか役立ちません
   それが中国の本質を理解する妨げになっているのです

  ♪
 楊海英『中国を見破る』(PHP新書)
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 中国の歴史改竄はなにも共産党だけの専売特許ではない。
 蒋介石の国民党も嘘八百を並べたし、そもそも司馬遷の『史記』からして白髪三千丈、『三国志』は史実が怪しい。『三国志演義』とか『西遊記』は史実とは無縁のSF。歴代王朝が綴る「正史」は曲筆と嘘、つまるところ政治宣伝である。
 中国の史書には『古事記』のようなロマンの薫りはない。草花の匂いがしない。かわりに血の匂いが染みついている。
 近現代史をみても日清戦争を中国では甲午戦争と表現して、誰と戦争をしたかは曖昧、そのうえ敗北は認めない。遠くへ逃避し、延安の洞窟で逃亡生活とハーレムと壮絶なリンチに明け暮れた、血なまぐさい、凄惨な闇が『大長征』となった。
 花園ダム爆破による洪水で数十万人が溺死した不祥事を「日本軍がやった」といいふらし、あまりに不潔な疫病の蔓延を防止するための731部隊が、生体実験をしたなどと嘘宣伝ばかりだ。戦後、アメリカが詳細を調べあげ、731細菌部隊の目的は防疫とした。
 ありもしなかった南京事件を「南京大虐殺」だったと戦後しばらくしてからでっち上げた。数万の犠牲を出した天安門事件は「なかった」ことになった。なにしろ世界にテレビ中継されていたのに新幹線事故車両を穴を掘って隠そうとした。炭鉱事故は報道しなかったし、災害報道は軍の救援活動のフィルムばかりである。
 
 ところが中国がいうのだから正しいのだ、中国に謝罪すべきだ、友人なのだと、頓珍漢は友好を唱える日本人の似非インテリや政治家、外務官僚、財界人が多いから中国人からみれば馬鹿の骨頂にみえるだろう。
 日本人の中国理解は日本人に役立つかもしれないが。中国の本質を理解する妨げになっていると楊海英教授はずばり言う。
 『中国五千年』も『中華民族』も嘘であって、そのうえ『漢族』という概念が誕生したのは二〇世紀になってからのこと、日本には万世一系の「通史」があるが、中国には、「『大日本史』『日本外史』のような通史が存在しない。秦の時代から、王朝が入れ替わると、新しい王朝が滅びた王朝の歴史をまとめてきた。司馬遷の史記にはじまり、王朝ごとの歴史はあっても、複数の王朝を跨ぐ歴史(通史)を記述する発想がなかった」(63p)
 上記はじつに重要なポイントである。
 中国共産党が言い出した「中華民族」なるシロモノにしても、「漢文化への同化論はそもそも歴史的に存在しない」。
 だからこそ「歴史を書き換えることで、現在の中国の政治家や知識人は、異民族を同化させることにおいて、自らを正当化できるのである」。これが中国共産党の「少数民族弾圧の根底になる」(98p)のだと楊教授は、本質を衝くのである。
 また「権力を握るのは皇帝のみであり、神や仏ではない。その皇帝が自分の都合にあった思想しか許さず、とりわけ外来の宗教を弾圧する」。
 それが個人崇拝、権力者崇拝の土壌である。
 中国の本当の知識人にとっては万世一系の日本には政治にも文化にも落ち着きがあって、羨ましくて仕方がないというのが本音だろう。
 もやもやを吹き飛ばす爽快な一冊!
                     (宮崎正弘)


 「宮崎正弘の国際情勢解題」 
     令和六年(2024年)8月9日(金曜日)
     通巻第8361号より
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