「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和三年(2021)6月18日(金曜日)
通巻第6953号
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香港は二度殺された。リンゴ日報は倒産の危機
中国共産党を批判する言論は絶対に許さない
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日本に当てはめると分かりやすい。
左翼全体主義が権力を握れば、例えば「産経新聞」が外国勢力と与んで「間違った報道を配信し」、社会の安全を乱したとして、経営ならびに編集幹部を根こそぎ逮捕し、資産を凍結する。事実上の倒産に追い込むのだ。
同時に中国共産党を批判する出版社、雑誌、テレビ・ラジオのミニ局、ネットメディアにも捜査が及び、「国家安全維持法」などという出鱈目な法律で裁判にかけられ、日本から言論の自由が完全に消えてしまう悪夢。さしずめ小誌も廃刊に追い込まれる。
このようにオーウェルが預言した、権力が言うがままの奴隷となるロボット人間社会=「1984年」状態が、いまの香港で実際に展開されている惨事である。
2021年6月17日午前七時、香港警察は500人の警官を動員し、香港唯一の自由なメディア「リンゴ日報」本社を手入れし、経営ならびに編集幹部五名を逮捕した。
張剣虹CEO、羅偉光・編集長、幹部の周達権、陳姉便、張志偉ら経営幹部らは「香港国家安全維持法」の第二十九条に違反し、外国ならびに外国機関と結託し、香港社会の安定を損ねた」などとする逮捕理由を挙げた。
香港警察国家安全担当の李桂華が記者会見で容疑を説明し、同社の資料ならびにコンピュータ38台を押収した。五人は別々の警察署に連行された。(註 陳姉便の「姉」はさんずい)。
リンゴ日報の持ち株会社「壱媒体」は香港株式市場で、取引が成立せず、またリンゴ日報と関連会社の資産(およそ1億6000万円)が差し押さえられた。
印刷所の資産も差し押さえられたため、リンゴ日報が発行を継続できるかどうか、絶体絶命の危機に立たされることになった。
リンゴ日報は香港返還直前の1995年に創刊され、斬新なカラー印刷と共産主義批判の誌面がたちまち人気を博し、売り上げトップ、一時は週刊誌『壱』に加えて、台湾でも新聞と週刊誌を発行するほどだった。『壱』の紙媒体の発行は2028年に休刊となった。
創設者のジミーライ(黎智英)は2014年の雨傘革命でも逮捕されているが、昨秋以来、拘留されたまま起訴されており、長期の禁錮刑と資産没収が行われた。ジミーの二人の息子も取り調べを受けた。
これらは2020年7月1日から施行された自由民主弾圧強化法である「香港国安維持法」を全ての法源としており、ジョシア・ウォン、アグネス・チョウ(周庭)らの逮捕、拘留も、同様である。
▼香港にあった、あの闊達な自由は中国共産党によって殺された
簡単に経過を振り返ると2020年12月に、香港警察は、まずジミー・ライを「詐欺罪」で別件逮捕した。契約と異なった使用をしているのが「詐欺」にあたるというイチャモンだった。
同時に国安法違反容疑だとしてリンゴ日報本社を捜索し、「外国勢力との接触」の証拠を見つけ出すためにジミーの保有するヨットまで捜査をすすめた。
香港行政長官は歴代、中国共産党の傀儡だが、香港の百万人デモ、一連の反対行動や抗議集会は、欧米の支援があると睨んでいるからで、事実、ジミーが渡米した折には、ペンス副大統領、ポンペオ国務長官が彼と面談しているのだ。
大量の民主活動家の起訴理由は「不許可集会を組織した」とし、とくにジミーが『香港民主化のイコン』として尊敬されているため、再逮捕、起訴。2021年4月に一年二ケ月の実刑判決を出し、ジミーの個人資産を凍結した。
この裁判では民主党元党首だった李柱銘らも起訴されており、執行猶予付きの判決が出た。
G7(ロンドン、6月11日─13日)では共同宣言に「香港における人権、自由および高度な自治の尊重を求める」と銘記した。このG7宣言をあざ笑うかのように、中国共産党は香港の自由、人権、自治を殺した。
欧米メディアは一斉にこの逮捕劇を報道し、「中国共産党の創立百周年を前に、党の権威を傷つけるような言論を封じ込めた」とした。しかし、日本のメディアの扱いは小さく、ワクチンと五輪報道の陰に隠れている。
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令和三年(2021)6月19日(土曜日)
通巻第6954号
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香港リンゴ日報、幹部逮捕という抑圧翌日、50万部が売り切れ
香港ジャーナリスト団体は一斉に香港行政府非難
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暗黒に曙光が射した。
香港の街角でリンゴ日報は唸りを上げて、50万部を売り切った。
17日早朝、リンゴ日報本社に香港警察500人が「乱入」し、書類やパソコンを押収し、資産凍結に踏み切ったため、発行の継続は不可能と言われた。
リンゴ日報の社員はくじけなかった。押収されなかった旧型のパソコンをかき集め、あるいは自宅のパソコンから記事を作成して送信し、深夜まで作業が続いた。
この間、香港市民から激励の電話、メールが集中し、「発行したら家族、友人、近所に配布するので50部買う。おれは百部買うぞと鼓舞激励、深夜にリンゴ日報は通常部数の六倍にあたる50万部の印刷を決めた。
一部10香港ドル(140円)だから、50万部売れたとしても、全体の営業経費には覚束ないとはいえ、香港市民がいかに行政府に対して怒りを抱いているかが分かる。
2020年8月のジミー・ライ不当逮捕翌日も、リンゴ日報は55万部を印刷し、売り切った。前にも書いたが中国共産党系の「文わい報」はコンビニでもまったく売れず、朝7時に主要駅党で無料配布している。
6月18日の「リンゴ日報」に一面見出しは
「国安警捜、拘五人──該報員工下、午後継続工作進加印刷50万部」
リンゴ日報は資産を凍結されているため、印刷に必要な紙、インクなどの確保には市民と浄財が必要になったとしている。
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