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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

姨捨棚田上の三峯山へ。秋雨の中、幽玄の森を歩く。(妻女山里山通信)

2011-11-09 | アウトドア・ネイチャーフォト
 棄老伝説で有名な姥捨山は、一般的には冠着山(姥捨山)のことですが、天保5年(1834)刊の『信濃奇勝録』では、姥捨山と描かれているのが、この三峯山です。予定では、鏡台山を三滝から登る予定でしたが、生憎の秋雨。しかも、午後の方が雨脚が強くなるとの予報だったので、とりあえず三滝まで行ってみたのですが、無理と判断して急遽登る山を変更したのです。

 姥捨山の上にある大池は、姨捨の棚田に水を供給する溜め池です。周りは千曲市のキャンプ場として整備され、とても美しい所。大河ドラマの『風林火山』のロケでも使われました。善光寺平から車で15分ほどなのに、冠着山の坊城平と同様、以外と知られていないような気がします。大池キャンプ場の駐車場から山頂までは、約1時間。登山道はよく整備されていて初心者や子供でも安心して登れます。三峯山は、北側の国道304号線の聖湖から登るかリフトで上がるのが一般的ですが、あまりに呆気ないのでたまには大池から登る事をおすすめします。

 大池の縁を歩いてキャンプ場を横切り、竪穴式住居のような小屋が登山道入り口。丸太で組まれた急な階段を登り、まずは風越山を目指します。風越山直下で尾根に乗り、後は尾根伝いにコブをひとつ超えたら三峯山山頂。登るほどに雨脚が強くなりましたが、雨に煙る落葉松林は幽玄の趣。キノコはほとんどありませんが、尾根に乗る手前で甘い香りが森中に充満している場所がありました。みな知らない様でしたが、桂の樹の香りです。秋の桂はカラメルの匂いを放つのです。

 息子達が小さい頃、よく山梨県上野原市の三国山へ登りましたが、登山口の軍刀利神社の奥社には御神木の大桂があり、秋には谷中に芳香を振りまいていました。息子達はケーキ屋さんの匂いといって親しんでいました。桂は、香りが出るという香出(かづ)が転訛してカツラになったという説があります。

「黄葉する 時になるらし 月人の 桂の枝の 色づく見れば」万葉集

 桂は、古代中国では月にある高い理想を表す樹で、木犀(モクセイ)のことらしいのですが、渡来して桂になったようです。中国原産の木犀が当時の日本にはなく、同様に香りの強い桂がその代わりになったのかも知れません。月人は、かぐや姫の伝説も同様に古いので、月に住む高貴な殿上人を表すのでしょう。日本最古の物語が宇宙人?との交流というのも面白いものです。

『万葉集』巻十六の第三七九一歌には、「竹取の翁」が天女を詠んだという長歌があります。
(序)
昔有老翁 号曰竹取翁也 此翁季春之月登丘遠望 忽値煮羮之九箇女子也 百嬌無儔花容無止 于時娘子等呼老翁嗤曰 叔父来乎 吹此燭火也 於是翁曰唯<々> 漸T徐行著接座上 良久娘子等皆共含咲相推譲之曰 阿誰呼此翁哉尓乃竹取翁謝之曰 非慮之外偶逢神仙 迷惑之心無敢所禁 近狎之罪希贖以歌 即作歌一首
(序訳)
昔、竹取の翁がいて春の月に丘に登って遠くを眺めていると、若菜煮をしている九人の娘に出会った。娘達は愛嬌に満ちて花のような美しさは比類もないほど。その時娘らは翁をからかって言った。爺様こっちへ来て火を吹いてくださいな。翁は歩み寄って火の前に座った。しばらくすると娘らは微笑して、互いに譲りあいながら だれがこの翁を呼んだのか と言った。竹取の翁は詫びて言った。思いもかけず仙女様に出逢い、なれなれしくお側まで参りました罪は、歌で償いたいと願います。そこで作った歌一首。
(集歌3791訓読)とこの後さらに歌が続きます。

 三峯山山頂へ着いた頃は大雨。北アルプスや眼下の善光寺平はもちろん、すぐ眼下にある出発地点の大池や反対側の聖湖さえ見えません。おまけに展望台は閉まっていて入れず。仕方なく二階のテラスで昼食にしました。N氏が事前に立ち寄った鏡台山の縄文の名水でインスタントラーメンを作ってくれました。寒空の下でビールで乾杯。すると、聖山と冠着山の雲がするすると解けました。

 雲上の宴会は一時間足らずでお開き。そそくさと下って湖畔を散歩した後は、男根と女陰の大きな石像が祀られた奥津神社に立寄り、巨大な御神体を拝んでから万葉温泉で温まりました。性器信仰は世界中にあり、日本でも縄文時代からその痕跡は残っています。それだけ出産は無から有を生む神秘的なものであり、且つ危険を伴うものであると同時に、集落や一族の滅亡にも繋がりかねない重大なことだったわけです。子供を大事にしない国に未来はありません。

 今回のトレッキング中には、友人が持つガイガーカウンターで、何カ所か計測しながら登りました。機種や計測方法等が正確性に欠けるので参考程度ですが、地上5センチで0.031から0.125マイクロシーベルト毎時でした。高めだったのは、山上よりも駐車場などでした。千曲市、長野市南部は、比較的低めに出ます。3月に放射性物質が飛散した時に、そのタイミングで降雨がなかったことが幸いしたと思います。長野市北西部や上田市以南はやや高めです。




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