モリモリキッズ

信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

幻のハナビラタケ。樹液バーにたった一頭のオオムラサキ。カブトムシとアオカナブン(妻女山里山通信)

2016-07-17 | アウトドア・ネイチャーフォト
 今年の梅雨は雨が多めです。妻女山から長坂峠への林道も大雨で随分とえぐれてしまいました。蒸し暑い中をクロメマトイに纏わり付かれながら登って行くと、10mぐらい先をまるで道案内するかの様にキセキレイが行きます。歩きながらたまに餌をついばみ、私が近づくと飛び立ち先へ。また尾を振りながら先導します。車の先導をすることもあります。面白い習性ですね。

 長坂峠分岐(左)。右手が斎場山で、左へ歩くと陣馬平です。高い木がコナラで、その下の木はオオムラサキの幼虫の食草となるエノキ。オオムラサキが全く見られません。昨年の松枯れ病の空中散布の影響でしょう。今年は中止になったので昆虫も復活してきましたが、少ない。特に十数種類いたゼフィルスは全滅状態です。
 ひとつの樹液バーにはカブトムシとアオカナブン、カナブンにオオスズメバチ。もうひとつのにはオオムラサキがいました(中)。昨年はなにもいなかったことを考えると一安心ですが、たった一頭とはあまりに寂しい。
 中尾山-茶臼山ハイキングに参加されたご夫婦と邂逅したので、陣馬平と堂平大塚古墳へ案内しました。喜んで頂けたと思います。出会った方には必ず声を掛けます。特に貝母の時期は必ず。戻ると別の樹液バーで吸汁中(右)。これがカブトムシやミヤマクワガタだとオオムラサキにとってはかなり危険。脚の一振りで口吻が切断されたりするのです。まあ、たいていはそれでも生きられますが。口吻はチューブではなく、U字型の樋(とい)の様なものが羽化する時に合わさるのです。たまにそれが上手くいかなかったのか、樹液が口吻の途中から漏れている個体を目にすることもあります。

 曇ってきたのと、小雨も降ってきたので帰ろうとして、長男がハナビラタケをもらったということを思い出しました。そうだ、その季節だと反転して森の奥深くのシロへ。落葉松の根本に幻のハナビラタケを発見(左)。しかも大きい! これは三分の二を収穫した後(中)。胞子を飛ばしてもらうためです。喜々として帰る途中に今度はシロキクラゲを発見(右)。

 ハナビラタケ(Sparassis crispa)は、担子菌門ハラタケ綱タマチョレイタケ目に属し、ハナビラタケ科のハナビラタケ属に分類されるキノコの一種。これは幅が40センチ以上、高さが30センチはありました。βグルカンが豊富で栽培もされていますが、大変高価なキノコで、これぐらいだと5000円は下らないと思います。腐朽菌なので、右側にある落葉松の仮導管の壁を貫通して菌糸が蔓延しているはずです。
 天ぷら、湯がいてサラダ、クリームパスタ、アヒージョ、豚肉と中華炒めなどに。冷凍保存や乾燥保存もできます。幻といわれるのは、発生時期が梅雨時でいわゆるキノコ狩りの季節でないこともあるでしょう。また、舞茸などと同じくシロを知らないと採れないキノコというのもあるかも知れません。妻女山山系の放射能汚染はかなり低いのですが、念のため塩水に浸け、一度茹でこぼしてから調理します。

 シソ科トウバナ属クルマバナ(車花)が咲き始めました(左)。クマノミズキの実が大きくなり始めました(中)。秋には濃紺の色になり、軸は鮮やかな朱色になり、それは美しいもので、私は森の珊瑚と呼んでいます。ヌスビトハギの群生があちこちで咲き始めました(右)。実はいわゆるひっつき虫で、ズボンのあちこちにたくさん付く厄介な植物です。

 上杉謙信が七棟の陣小屋を建てたという陣馬平(左)。貝母に侵食し始めたヨシの根の除去はほぼ終わりました。梅雨明け後に仲間に集まってもらい最後の仕上げをします。その貝母の現在(中)茎は枯れ、さく果も弾け始めました。さく果をヨシの根を掘り起こした部分に蒔いています。信濃毎日新聞で三回も取り上げていただいたので、訪問者が200人位になったのではないでしょうか。ヨシのあった裸地に貝母が増えるといいのですが。
 多雨のために苔の胞子嚢も元気です(右)

 翌々日の樹液バーには、大雨だったのでオオムラサキの姿はなく、カブトムシがいました。お分かりでしょうか。よく見るとオスのカブトムシの下に別のカブトムシが見えます。メスのカブトムシです。ペアになり交尾したオスは、メスが吸汁中はずっと覆いかぶさってメスを守るのです。クワガタも同じ行動をします。
 樹液バーのヒエラルキーでは最上位に位置するカブトムシですが、主な天敵はタヌキやカラスで、これに狙われるとその樹液バーに来るカブトムシがほぼ全滅することもあります。右にいるアオカナブンのメスは後部しながらオスをおんぶして吸汁することもよくあります。こんな感じで、撮影だけでなく生態や相互連関、共生関係などを注意深く観察するのが私のスタイルです。定点観測をすることで、微妙な里山の変化も見えてきます。

 そのカブトムシのオスを別の角度から撮影した一枚(左)。カブトムシの色が保護色であることが分かります。吸汁中のカナブンとアオカナブン(中)。こちらのカブトムシは吸汁に夢中です(右)。この後すぐにオオスズメバチが飛来しましたが、難なく排除撃退しました。

 ヌルデ白膠木)ウルシ科ウルシ属(左)。別名は、フシノキ。生薬名は、塩麩子(えんふし)/塩麩葉(えんふよう)/五倍子(ごばいし)。小葉と小葉の間に翼(つばさ)があるのが特徴。 ヌルデにできる虫こぶ(虫えい・ゴール・GALL)のことを五倍子といいます。これは、ヌルデの若芽にアブラムシ科のヌルデノミミフシが寄生し、枝の翼に卵を産み付け、それが耳状にふくれたものです。
 エノキ(榎)ニレ科(中)。幹周り1m、高さ20mになる落葉高木。これも葉に小さなブツブツがたくさん。やはり虫コブで、エノキハイボフシといいます。フシダニ(ダニ目フシダニ科)の一種によって作られる不規則な形の袋状の虫えい。体調は0.2ミリ以下のウジ虫状。また、エノキには先の尖ったエノキハトガリタマフシもできることがあります。形成者はエノキトガリタマバエ(ハエ目タマバエ科)。各々の虫こぶには幼虫が1匹ずつ入っています。年1世代で成虫は3~4月に羽化をして、エノキの新芽付近に産卵します。5月~6月に幼虫と虫こぶは成熟し、成熟した虫こぶは落下します。幼虫は地上に落下した虫こぶの中で翌春まで過ごして蛹になるのです。
 エゴノキの実 エゴノキ科エゴノキ属(右)。別名は、ロクロギ(轆轤木)、チシャノキ。エゴノキにも、エゴノネコアシアブラムシによるエゴノネコアシという虫コブができることがあります。但し、近くにイネ科のアシボソという草があることが必要条件。果皮にはサポニンが含まれ天然の石鹸として使えます。下向きに鈴生りに咲く白い花は、芳香があります。散り始めると地面が真っ白になるほど。

 クロアゲハに似ていますが、尾状突起が長く、内側に湾曲しているのでオナガアゲハでしょうか。どこかから飛来して休憩中(左)。幼虫は、コクサギ、サンショウ、カラスザンショウ、ツルシキミなどの葉を食べます。
 ヨツスジハナカミキリ(四條花天牛:Leptura ochraceofasciata)カミキリムシ科ハナカミキリ亜科(中)。交尾をしながらメスがヒヨドリバナの花粉を食べているところを邪魔してしまいました。翅の模様はハチの擬態。
 小雨模様なので帰ろうと車を出すとボンネットにタマムシが(右)。そうっと停車して静かにドアを開けて撮影。アオカナブンと共に、森の宝石と呼びたくなる様な美しい甲虫です。

 妻女山展望台から茶臼山。右奥が神城断層地震で山頂が4割も崩壊した虫倉山。茶臼山手前は自然植物園や動物園。その手前は篠ノ井の市街地。さらに手前の千曲川の手前では長芋畑のつるが伸びて青々としてきました。雨は止みましたが、この後かなりの本降りになりました。
 今回、山の日にちなんで斎場山と茶臼山を紹介する記事を監修しましたが、里山にもっと興味を持っていただけるといいなと思います。講座やインタープリターの仕事も徐々に増えたらいいなと思っています。

この8月11日は、初めての国民の祝日「山の日」となります。それに先立ち、7月の第4日曜日(今年は24日)が「信州山の日」で、色々な行事が行われます。私も関連でお仕事を頂きましたが、写真を使った記事や、講座・講演なども承ります。お気軽にお問い合わせ下さい。
 妻女山展望台の南にある大きな駐車場の奥には、清野氏の鞍骨城への地図や、登山ノート、拙書『信州の里山トレッキング 東北信編』のパンフレットが置いてあります。お問い合わせやお仕事のお申し込みは、当ブログのメッセージを送るからお願いします。

妻女山の位置と名称について」妻女山と赤坂山と斎場山について。『真田丸』で訪問者が激増中。

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お問い合せや、仕事やインタビューなどのご依頼は、コメント欄ではなく、左のブックマークのお問い合わせからメールでお願い致します。コメント欄は頻繁にチェックしていないため、迅速な対応ができかねます。
 長野県シニア大学や自治体などで好評だったスライドを使用した自然と歴史を語る里山講座や講演も承ります。大学や市民大学などのフィールドワークを含んだ複数回の講座も可能です。左上のメッセージを送るからお問い合わせください。


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2 コメント

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なるほどー。 (hino)
2016-07-17 22:17:24
樹液バーを中心に昆虫の社会が回ってるんですね。
勉強になりました!
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樹液バー (モリモリキッズ)
2016-07-18 17:21:37
コメント感謝です。
肉食昆虫や花粉食の昆虫もいるので、必ずしも樹液バーだけではないのですが、
特に夏は樹液バーが中心となって回っているのは確かです。
ただ、ここにも農薬や放射能の影が忍び寄ってきて、楽観できない状況で心配です。
引き続き観察レポをアップしますのでご笑覧下さい。
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