その日、アシメックはソミナが米をつく音を聞きながら、早めに床についた。コルは小さく歌いながら、ソミナのそばに引っ付いている。ソミナが好きなのだ。もう母と同じくらい、愛しているのだ。もういい。おれがいなくても、妹はやっていける。
その様子を見ながら、アシメックは目を閉じた。
夢を見た。
はるかな上空から、アシメックはタモロ沼を見下ろしている。あの時と同じだ。
季節は春だった。みずみずしく水をたたえたタモロ沼に、人々が集まり、稲を植えていた。ああ、またやっているのだ、とアシメックは思った。
「ごらん」
とまたあの声が言った。
「あれはまだ、風が起こす風紋なのだ。まだ何もわかってはいない。だが、確かに、いつか風になる種を持っているのだ」
「ああ、そうだ」
アシメックはその声にこたえた。
「わたしたちの道は、はるかに遠い。長い年月を、やっていかねばならぬ」
声は言った。アシメックは返事をしなかった。だが心のどこかで、わかっているような気がした。
「想像できるか? あの、まだとても小さい魂が、何もわかっていない種が、今にこの世界に大きな風を起こすものになるということが」
声が一段と近づいてきた。アシメックは、その誰かが今、自分の耳元でささやいているのを感じた。