
「ああ、ソミナ、囲炉裏に榾をくべておくれ。湯がなかなかわかないの」
言ったのは村の産婆役をしている、ソノエという女だった。囲炉裏に水の入った土器の壺を入れ、湯をわかそうとしている。エマナは家の隅の茣蓙の上でうずくまり、しきりにうめいていた。
「木舟をかりてきたよ」
と言いながら、ソミナの後からまた他の女が入ってきた。出産は女の大仕事だから、多くの女が協力し合う。その女は小さな舟のような形をした木の器を持って来た。中には少し水が入っている。
木舟というのは、舟作りの技術を応用して作った器だ。小さな舟の形をしている。それはカシワナ族が出産の折に使う産湯桶だった。女たちは子供が生まれると、この木舟にぬるま湯を張り、生まれたばかりの赤子を洗うのだ。
木舟を囲炉裏のそばにおくと、その女は茣蓙の上でうめいているエマナのところに行った。そしてエマナの腰をなでてやりながら、励ました。
「がんばろうねえ。今日が山だよ。痛いかい?」
するとエマナはうめき声の影から、吐くように言った。
「ちきしょう、トレクのやつ!!」
それを聞いたソノエは、どうしようもないというように笑って顔を振った。