ミューズの声聞こゆ

なごみと素敵を探して
In search of lovable

このたびの東日本大震災で被災された多くの皆様へ、謹んでお見舞い申し上げます。

大震災直後から、たくさんの支援を全国から賜りましたこと、職員一同心より感謝申し上げます。 また、私たちと共にあって、懸命に復興に取り組んでいらっしゃる関係者の方々に対しても厚く感謝申し上げます。

天井

2019年12月20日 | なごやか

 喫茶店アルファヴィルのアルバイトで、NPO法人なごやかの事務職員でもあるIさんの誕生日を口実に、私たちはまた理事長にねだって老舗の料亭へ行くことになった。

職員たちには平等を心がけているんだけれどなあ、とぼやきながらも、もてなしの手配をする彼はいそいそと嬉しそうだ。

 当日、理事長の後ろについて重厚な門構えをこわごわくぐった私たちは、庭を一望できる和室に通された。

本日の主役は床の間の前ね。

笑いながら彼はIさんへ言った。

一品一品丁寧に運ばれてくる会席料理に舌鼓を打ちながら、私は室内をきょろきょろ見回した。

「なんだかすごく立派な天井ですね。」

私の視線の先を見上げた理事長は大きくうなずいた。

「これは網代といって、杉やヒノキなどの片板(へぎいた)を編んだもので、編み方には矢羽編(やばねあみ)、市松編(いちまつあみ)、籠目編(かごめあみ)などがある。

ここはきれいな矢羽だね。

この部屋は茶室を模しているようで、ほら、こちらの天井に段差がついているだろ?

これは下り天井(落天井:おちてんじょう)という様式で、茶室で亭主の座る点前畳(てまえだたみ)の天井を、客座の天井よりも一段低く作る。客に対する亭主の謙譲の気持ち、上座と下座を視覚的に表現しているんだ。

ちなみに、そちらの客座の方の天井は野根板天井(のねいたてんじょう)といって、椹(さわら)や杉を薄く剥いだ長板を竹の垂木(たるき)に載せて仕上げているね。

今こんな天井を作るとしたら、とんでもない費用がかかるだろうよ。」

そんな気がしてきました。それにしても、理事長は何でも知ってるんですね。

彼は苦笑して首を振った。

「たまたまきみが知っていることを尋ねてくれただけだよ。

僕は小さな設計事務所の息子だからね。さしずめ『門前の小僧、習わぬ経を読む』かな。

でも、これからはさりげなく天井を見上げる習慣をつけるといい。本当に立派な建物は天井にも様々な心配りがなされているから。」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする