現在、県・市の補助金メニューで、非常用自家発電装置設置工事と簡易陰圧装置設置工事を計8本、同時に進めている。
年度内の工事完了・実績報告が必須なので、かなり馬力を上げてあたっている。
これらの工事は、当法人ホームの電気工事のほぼすべてを手掛けた電気工事会社さんが落札してくれた。
そちらの会社の若社長さんは、東日本大震災で鹿折地区にあった社屋と自宅をすべて流され、大変な思いをされた方だ。
その後市内外の復興関連の工事を手掛けて業績を伸ばされ、多忙な日々を送っており、二人して向かい合って打ち合わせるのは本当に久しぶりだった。
契約日から完成予定日まで期間がとにかく短いことから、先方が綿密な工程表を作成し持参してくれた。
これなら余裕で間に合いますね、さすが社長さんです。
僕は安どのため息をついた。
いえいえ、かえって、全額前払いしていただいて、例年のように年度末の運転資金の手当てに困らなくて本当に助かりました。相手が頭を下げた。
お互い安心したせいか、しばし時間を忘れて世間話に花が咲いた。
「コロナ禍で生活にメリハリがないじゃないですか、それに私はこんな風に休みなしなので、今日が何曜日なのか、分からなくなるんですよね。私は夜飲み歩くこともなければ、ゴルフをするわけでもない、唯一、少年バレーボールのコーチを務めていたのですが、今はそれも自粛で。おしゃれに興味があるわけでもない。井浦理事長さんにいただいたシャツをいまだ着ていますよ。妻にはそろそろ処分したら、と言われているのですが(笑)」
不意打ちだった。ああ、憶えていてくれたのか。
震災の翌日、家を失い、着の身着のままの彼とその一家にばったり会った。下請けの防災設備会社の事務所に間借りするという。奥様はショックを隠せない様子だった。
僕はいてもたってもいられなくなって家に戻り、スポーツバッグを取り出すと、クローゼットにあった未開封・未使用のシャツやTシャツ、靴下、タオルなどをありったけ詰め込んで取って返し、彼に渡した。「センム(当時の彼の肩書)、お互いきっとはね返しましょうよ。」
僕が言葉に詰まっていると、彼は笑って言った、「バッグも使っています。」