1963年、「ビー・マイ・ベイビー」などの大ヒットにより、弱冠23歳にして売れっ子プロデューサーにのし上がったフィル・スペクターは、当時としては非常に斬新なアイディアを実行に移す。
自分が抱える人気アーティスト4組によるクリスマスソングのカバー集「ア・クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター」である。
「ウォール・オブ・サウンド」と呼ばれた彼独特の録音技法を用い、クリスマスソングの名曲へ「ビー・マイ・ベイビー」、「ダ・ドゥ・ロン・ロン」、「キッスでダウン」など4組のヒット曲を想起させる大胆なアレンジを施した一種のコンセプト・アルバムで、誰もがこの企画は大ヒット間違いなしと見ていた。
約8か月という異例の製作期間を費やし、ヒットシングルの収益のほとんどを製作費としてつぎ込んだこのアルバムは63年11月にリリースされたが、大コケしてしまう。
奇しくも発売日と重なったケネディ大統領暗殺事件とその後の自粛ムードに原因を求める音楽評論家は多いが、本当のところはわからない。
ともあれ、ロケットのように急上昇していたスペクターのキャリアはこれを境に減速し、ビートルズなどイギリス勢のアメリカ侵攻によってとどめを刺されることになる。
けれども、このクリスマス・アルバムは長い時間を経て名盤中の名盤との評価を得て、60年以上たった今なお、世界中で愛聴されている。
今年のクリスマスも、きっと何万人というひとがこのアルバムと出会うことだろう。
1曲目の、ダーレン・ラブがソウルフルに歌う「ホワイト・クリスマス」は、いつ聴いても飛び切りのワクワク感をもたらしてくれる。
ダーレン・ラブはその後、大ヒットした映画「リーサル・ウエポン」シリーズでミセス・マータフを演じている。
第一作目は特に、いつ歌い出すかとハラハラしたものだ。
マータフ刑事(ダニー・グローバー)と。