Kさんはざしき童子に会ったことがあるかと唐突に尋ねられた時は、あまりに思いがけなくて、もう一度聞き返してしまった。
なんでも、最近友人が岩手県北の金田一温泉にある、ざしき童子が出現することで有名な温泉旅館に宿泊して、とてもよかったからと彼女にもしきりに薦めているのだという。
「その旅館は以前火事で全焼していて、てっきり再建はないと思っていたよ。
ざしき童子には、会ったことがある。
僕の祖父も若いころ、大正時代に会ったことがあるらしく、そのざしき童子は若い女性だったそう。
一般的にざしき童子というとおかっぱで着物姿の少女のイメージだけれど、宮沢賢治の童話に登場するのは紋付き袴姿の男の子だし、金田一温泉のそれも、元々は南北朝時代の貴族の男の子だ。
僕が会ったざしき童子は、グレーのスーツを着た若い女性で、履歴書を携えていた。
あ、笑ったね。
思うに、ざしき童子はさまざまな容姿で時と場所を選ばずに現れるので、よほど注意していないと見逃してしまう。
実際、祖父と僕は会っているけれど、父はない。息子も会えるかどうかわからない。
でも一つ言えるのは、人を大事にしていればざしき童子に会えるかもしれないということ。
いつも丁寧に接し、一緒にいる短い時間を双方気分良く過ごせるよう心掛けていれば、会える確率は高くなるように思える。
ただね、ひとたびざしき童子に会ってしまったら、彼、あるいは彼女に見切られないよう、常に襟を正して生きなければならない。
去られた家はみな一様に傾いてしまうのだから。
ひょっとすると、そうならないようにと覚悟を持ってしっかりやるから、幸運が増すのかもしれないね。
え?僕がざしき童子かもしれないって?それはどうかな。」
「日曜洋画劇場」のスポンサーだったレナウンは1970年代半ば、自社ブランドの「ダーバン」にアラン・ドロンを、「シンプル・ライフ」には“キャプテン・アメリカ”ことピーター・フォンダやリンゴ・スターを起用するなど、常に時代の最先端を往くCMを制作していた。
まつ毛の長いフォンダが伏し目がちに「シンプル・ライフ・イズ・マイ・ウエイ」とつぶやく。最高にカッコいいと思った。
毎日をよりシンプルに暮らしたい。所有せず、受け取ってもすべて配る。配るために受け取る。
結局、自分が豊かさを感じるのは、高揚するのは、知的な体験と、真摯な対応という形のないもの二つだけなのかも、としばしば思う。
日曜が定休日のやまねこデイサービスに勤務する私は、いきつけの喫茶店アルファヴィルへ朝から手伝いに来ていた。
モーニングセットがお目当てのお客様がたが一段落したころ、NPO法人なごやかの理事長が電源コードのリールを片手にドアから入ってきた。
「オーナー、先日のお赤飯のお礼に、今日はクレープを御馳走しましょう。その前に電源をお借りできませんか?」
オーナーとアルバイトのIさん、そして私の3人は外に出てみて驚いた。
クレープの移動販売車がお店の前に停車しているではないか。
「何でも好きなものを注文してください。―きみたちもだよ。」
私たちもお相伴にあずかれるらしい。
理事長のもてなしはいつもこんな風にけれん味があって大向こうをうならせる。
ところがこれだけでは済まなかった。
オーナーの携帯電話が鳴った。
お母様からだった。
差出人が理事長の、母の日仕様の和菓子の大箱がFデパートから届いているというのだ。
私は照れくさそうに顔を赤らめている理事長の横顔を見ながら思った、このひとは相手を驚かせ、喜ばせるのが本当に好きなのだな、と。そして、このひとはどれだけオーナーのことが好きなのだろう?と。
今週のぽらん気仙沼デイサービスは母の日週間ということで、昼食にお赤飯をお出ししているのですが、今日はH管理者から僕の母にと炊き立てのものをパック詰めでいただきました。
思いがけないおすそ分けに、母も大変喜んでいました。
どうもありがとう。
このように、ぽらんは優しさと思いやりでできています。