山形市内の桜もようやく咲き始めた火曜日は、朝の晴天はどこへやら、午後は曇り空となりました。幸い雨にはならず、山形弦楽四重奏団第35回定期演奏会が、文翔館議場ホールで開催されました。本日のプログラムは、
の三曲です。
最初のハイドンは、彼の弦楽四重奏曲全曲演奏を目指す演奏団体らしく毎回必ず取り上げているものですし、尾崎宗吉の曲は、近年の山Qがすすめている一連の日本人作曲家の作品シリーズの流れでしょう。最後のベートーヴェンは、晩年の弦楽四重奏曲群のスタートとなる作品です。
職場を出て軽く食事を済ませ、文翔館議場ホールに向かいます。春の夕風はだいぶ暖かくなり、一時の肌寒さはありません。それでも、ホール内は暖房が入り、快適に開演を待つことができました。恒例のプレ・コンサートは、アンサンブル・Tomo'sのお二人で、曲はミヒャエル・ハイドンの二重奏曲ニ長調。
今回のプレ・コンサート・トークは、1st.Vnの中島光之さん。ハイドンのOp.74-2 は、作曲家61歳の作品で、すでに貴族社会の終わりに近く、弦楽四重奏曲も貴族の邸宅の一室から出て、演奏会用ホールへ移行しつつありました。ハイドンも、英国での経験などから、動機をユニゾンで重ねるなど、コンサートホール向けに工夫するなど、演奏効果を狙って少し派手めにしているそうです。
次の尾崎宗吉作品は、遺族が保管していた楽譜を1980年代に発掘し、演奏されるようになったのだそうで、戦前の新人を見出すコンクールのオーディションで絶賛を博したのだそうです。戦争がなければ、たぶん日本を代表する作曲家になっただろうと思わせるOp.1。わずか三年の期間に書かれた、ヒンデミットやプロコフィエフを思わせるヴァイオリンソナタも素晴らしい作品だとか。
ベートーヴェンは、第九の後に弦楽四重奏曲しか作っていないのですが、これは自身の作曲活動のまとめとして、自分自身のために書いたものと思われます。内容が深くて、初演時にはあまり評判にならなかったとか。彼自身、どこまで行けるかを試みたものなのでしょう。40分近い大曲で、先へ先へと進んで行こうとする意欲を感じます。我々山Qも、初期なのか中期なのか後期なのかわかりませんが、先へ進みたいと考えています、とのこと。
うーん、いつもながら簡潔明快・中島調の解説で、お見事です。
さて、楽器配置は前回と同じく正面に向かって左から第1&第2ヴァイオリン(中島、駒込)、ヴィオラ(倉田)、チェロ(茂木)の順です。駒込綾さんは、オレンジの上に薄い黄緑色を重ねたようなドレスで、化学屋ならフルオレセインのような色、と言えばいいのかな、それとも溶かす前のバスクリンと溶かした後の蛍光色を重ね合わせたような色、とでも言いましょうか(^o^)/
ここからは、朝の続きです。
ハイドンの演奏が始まります。第1楽章:軽やかな始まりです。アレグロ・スピリトーソ。第2楽章:アンダンテ・グラツィオーソ。1stと2ndの同じ動きに、ヴィオラやチェロが細かく絡んだりする、優美で気持ちの良い、すてきな音楽です。第3楽章:メヌエット。赤いネクタイの茂木さんのチェロが存在感を示します。第4楽章:フィナーレ、プレスト。速く細かな動きの軽やかな音楽です。ハイドンらしい、音楽の楽しさが感じられます。
続いて尾崎宗吉の小弦楽四重奏曲です。第1楽章:アレグロ。集中力に富む演奏で、訴えかける力の強い音楽になっています。第2楽章:アンダンテ。日本音階風の要素を持つ、しっとりした音楽です。第3楽章:ロンド・スケルツァンド・ヴィヴァーチェ。スケルツォ風のロンドという想定か。作曲家の悲劇的な生涯を考えると、少々不謹慎な連想ですが、スタジオ・ジブリのアニメの、劇的な緊迫感を持ったシーンに合いそうな、すごくかっこいい音楽だと感じます。演奏する山形弦楽四重奏団の皆さんも、共感して曲に取り組んでいるのがよく分かりました。
15分の休憩の後、いよいよベートーヴェンです。
第1楽章:マエストーソ~アレグロ。ジャーッという力強い斉奏からチェロ、ヴィオラ、そしてヴァイオリンへ。四つの楽器が自由に絡み合うところと、力強く協調するところとが繰り返されます。この作品は、優美な美しさやハーモニーの快適さなどとは異なるものを追求した音楽のように感じられます。
第2楽章:アダージョ、マ・ノン・トロッポ・エ・カンタービレ。やっぱりチェロ、ヴィオラ、ヴァイオリンと順に入っていきます。互いに自由なようでいてしかも響きあう音楽です。自由な遊びもあり、軽みのある、中年のユーモアみたいなものを感じます。どれかの楽器に魅力的な役割を順に割り当てるのではなくて、それぞれがそれぞれの役割を自由に果たし、しかも全体が緊密に統合されていることを目指す音楽、といえばよいのでしょうか。
第3楽章:スケルツァンド・ヴィヴァーチェ。やはりチェロから。低弦に1stと2ndのヴァイオリンが高音で答えます。ユニゾンはダイナミックに、きれぎれの回想を経て終結へ。全曲を通して密度の濃い音楽、集中力を維持するために猛烈にスタミナを要する音楽だと感じます。
第4楽章:フィナーレ。頭の中で鳴っている音と現実の音のもどかしさ、そんな感じをベートーヴェン自身も感じつつ作曲していたのかも。異常な緊張感と集中力とを要する音楽で、音程などの技術的にも、気力とスタミナの配分の面でも、演奏者にはハードな曲なのだろうと感じます。
総じてこの曲は、作曲者晩年の曲だから老人が演奏するのがふさわしいとは言えないように思いました。体力、気力の面から、演奏可能な年代というのがあるように思います。たぶん、70代では難しいのでは。60代ではどうでしょう。精神的にも身体的にも、充実した時期だから挑戦できる、そういう音楽なのかもしれません。素人音楽愛好家の、ちょいとエラそうな物言いをお許しいただければ、課題は残しつつもよくここまで来たなと感じさせる、意欲的な演奏でした。
アンコールは、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.74-3「騎士」から、第3楽章:メヌエット。いや~、強烈な集中力を要求されるベートーヴェンの後に聴くと、実際ハイドンは窓から風が入ってくるようなさわやかな音楽でした。
(1) ハイドン 弦楽四重奏曲ヘ長調Op.74-2 「アポニー四重奏曲」
(2) 尾崎宗吉 小弦楽四重奏曲Op.1
(3) ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第12番変ホ長調Op.127
の三曲です。
最初のハイドンは、彼の弦楽四重奏曲全曲演奏を目指す演奏団体らしく毎回必ず取り上げているものですし、尾崎宗吉の曲は、近年の山Qがすすめている一連の日本人作曲家の作品シリーズの流れでしょう。最後のベートーヴェンは、晩年の弦楽四重奏曲群のスタートとなる作品です。
職場を出て軽く食事を済ませ、文翔館議場ホールに向かいます。春の夕風はだいぶ暖かくなり、一時の肌寒さはありません。それでも、ホール内は暖房が入り、快適に開演を待つことができました。恒例のプレ・コンサートは、アンサンブル・Tomo'sのお二人で、曲はミヒャエル・ハイドンの二重奏曲ニ長調。
今回のプレ・コンサート・トークは、1st.Vnの中島光之さん。ハイドンのOp.74-2 は、作曲家61歳の作品で、すでに貴族社会の終わりに近く、弦楽四重奏曲も貴族の邸宅の一室から出て、演奏会用ホールへ移行しつつありました。ハイドンも、英国での経験などから、動機をユニゾンで重ねるなど、コンサートホール向けに工夫するなど、演奏効果を狙って少し派手めにしているそうです。
次の尾崎宗吉作品は、遺族が保管していた楽譜を1980年代に発掘し、演奏されるようになったのだそうで、戦前の新人を見出すコンクールのオーディションで絶賛を博したのだそうです。戦争がなければ、たぶん日本を代表する作曲家になっただろうと思わせるOp.1。わずか三年の期間に書かれた、ヒンデミットやプロコフィエフを思わせるヴァイオリンソナタも素晴らしい作品だとか。
ベートーヴェンは、第九の後に弦楽四重奏曲しか作っていないのですが、これは自身の作曲活動のまとめとして、自分自身のために書いたものと思われます。内容が深くて、初演時にはあまり評判にならなかったとか。彼自身、どこまで行けるかを試みたものなのでしょう。40分近い大曲で、先へ先へと進んで行こうとする意欲を感じます。我々山Qも、初期なのか中期なのか後期なのかわかりませんが、先へ進みたいと考えています、とのこと。
うーん、いつもながら簡潔明快・中島調の解説で、お見事です。
さて、楽器配置は前回と同じく正面に向かって左から第1&第2ヴァイオリン(中島、駒込)、ヴィオラ(倉田)、チェロ(茂木)の順です。駒込綾さんは、オレンジの上に薄い黄緑色を重ねたようなドレスで、化学屋ならフルオレセインのような色、と言えばいいのかな、それとも溶かす前のバスクリンと溶かした後の蛍光色を重ね合わせたような色、とでも言いましょうか(^o^)/
ここからは、朝の続きです。
ハイドンの演奏が始まります。第1楽章:軽やかな始まりです。アレグロ・スピリトーソ。第2楽章:アンダンテ・グラツィオーソ。1stと2ndの同じ動きに、ヴィオラやチェロが細かく絡んだりする、優美で気持ちの良い、すてきな音楽です。第3楽章:メヌエット。赤いネクタイの茂木さんのチェロが存在感を示します。第4楽章:フィナーレ、プレスト。速く細かな動きの軽やかな音楽です。ハイドンらしい、音楽の楽しさが感じられます。
続いて尾崎宗吉の小弦楽四重奏曲です。第1楽章:アレグロ。集中力に富む演奏で、訴えかける力の強い音楽になっています。第2楽章:アンダンテ。日本音階風の要素を持つ、しっとりした音楽です。第3楽章:ロンド・スケルツァンド・ヴィヴァーチェ。スケルツォ風のロンドという想定か。作曲家の悲劇的な生涯を考えると、少々不謹慎な連想ですが、スタジオ・ジブリのアニメの、劇的な緊迫感を持ったシーンに合いそうな、すごくかっこいい音楽だと感じます。演奏する山形弦楽四重奏団の皆さんも、共感して曲に取り組んでいるのがよく分かりました。
15分の休憩の後、いよいよベートーヴェンです。
第1楽章:マエストーソ~アレグロ。ジャーッという力強い斉奏からチェロ、ヴィオラ、そしてヴァイオリンへ。四つの楽器が自由に絡み合うところと、力強く協調するところとが繰り返されます。この作品は、優美な美しさやハーモニーの快適さなどとは異なるものを追求した音楽のように感じられます。
第2楽章:アダージョ、マ・ノン・トロッポ・エ・カンタービレ。やっぱりチェロ、ヴィオラ、ヴァイオリンと順に入っていきます。互いに自由なようでいてしかも響きあう音楽です。自由な遊びもあり、軽みのある、中年のユーモアみたいなものを感じます。どれかの楽器に魅力的な役割を順に割り当てるのではなくて、それぞれがそれぞれの役割を自由に果たし、しかも全体が緊密に統合されていることを目指す音楽、といえばよいのでしょうか。
第3楽章:スケルツァンド・ヴィヴァーチェ。やはりチェロから。低弦に1stと2ndのヴァイオリンが高音で答えます。ユニゾンはダイナミックに、きれぎれの回想を経て終結へ。全曲を通して密度の濃い音楽、集中力を維持するために猛烈にスタミナを要する音楽だと感じます。
第4楽章:フィナーレ。頭の中で鳴っている音と現実の音のもどかしさ、そんな感じをベートーヴェン自身も感じつつ作曲していたのかも。異常な緊張感と集中力とを要する音楽で、音程などの技術的にも、気力とスタミナの配分の面でも、演奏者にはハードな曲なのだろうと感じます。
総じてこの曲は、作曲者晩年の曲だから老人が演奏するのがふさわしいとは言えないように思いました。体力、気力の面から、演奏可能な年代というのがあるように思います。たぶん、70代では難しいのでは。60代ではどうでしょう。精神的にも身体的にも、充実した時期だから挑戦できる、そういう音楽なのかもしれません。素人音楽愛好家の、ちょいとエラそうな物言いをお許しいただければ、課題は残しつつもよくここまで来たなと感じさせる、意欲的な演奏でした。
アンコールは、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.74-3「騎士」から、第3楽章:メヌエット。いや~、強烈な集中力を要求されるベートーヴェンの後に聴くと、実際ハイドンは窓から風が入ってくるようなさわやかな音楽でした。