電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

葉室麟『銀漢の賦』を読む

2012年11月07日 06時05分07秒 | 読書
先に『蜩の記』を読んでおもしろかったので、同じ著者の作品から、『銀漢の賦』を読みました。手頃な厚さ(薄さ?)もありますが、初刷が2010年刊の文春文庫で、2012年7月に第7刷となっています。わずか二年半の間に六回も増刷となるほど読まれている作品のようです。

主な登場人物として、月ヶ瀬藩家老の松浦将監、新田開発を指導してきた郡方の日下部源吾、百姓の十蔵の三名に周囲の人たちが加わる形です。おおむねこの三名が中心となる物語と言ってよいでしょう。なんとなく、藤沢周平の『風の果て』を思わせる想定です。少しずつ事態が判明していき、最後に全貌が明かになるという、推理小説風の展開も、『風の果て』を意識しているのでしょうか。



普請組70石・岡本家の小弥太は、道場の仲間である日下部源吾と、鰻の縁で笠原村の百姓の子・十蔵と共に、母・千鶴が作った手料理を食べ、友情を育みます。小弥太は、遠縁の松浦家に養子に入り、次女みつと縁組をします。代々執政を多く出してきた名家である松浦家では、長女・志乃が藩主惟常の側室となり、男子を産みます。これが、長じて新藩主となる惟忠で、小弥太から将監と名を変え、百姓一揆をきっかけとして前藩主に連なる旧執政グループを追い落とし、藩政を刷新します。飢饉の時にも救荒米を放出するなどして餓死者を防ぎ、新田を開発して実高を増やすなど、名君・名宰相と高い評価を得ています。

ところが、気ままに暮らす鉄砲組の日下部源吾は、将監が不治の病で余命一年の宣告を受けたことと、現藩主・惟忠との確執や、藩主の恣意に追随する勢力との権力闘争を知ることとなります。先の政変の際、一揆の首謀者として刑死した十蔵を悼み、将監と絶交していた源吾は、将監への刺客を命じられています。さて、この結末はどうなるのか?





1日1章ずつと思って読み始めたのでしたが、思わず引き込まれ、夜更かししてしまったほどのおもしろさでした。迫力があります。作者は、『蜩の記』でも感じましたが、生を希求する藤沢周平に対して、ほのかに死を美化する傾向が感じられます。その点を割り引いても、たいへん印象的な作品でした。

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