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喜劇「ペーちんの恋人」~モリエール『守銭奴』より~は「金銭」ではなく御冠船踊に執着する男が主人公☆

2013-08-18 19:29:07 | 琉球・沖縄芸能:組踊・沖縄芝居、他

蓋を開けて驚いた。モリエールの喜劇は極端な性格喜劇である。まさに金のためなら息子や娘の幸せなんぞどうでもいい、すべて損得の金が生きがいの男の極端さが物語の中軸をなすモリエール喜劇に対し、なんと嘉数道彦芸術監督は、御冠船踊り=組踊と古典舞踊に執着する頑固な佐久眞親雲上(ペーチン)を登場させたのである。脚本・演出の嘉数が現在の沖縄芸能界に、沖縄そのものに、琉球芸能の歴史、琉球処分後の時代の推移を捉えた芝居小屋を舞台に、琉球・沖縄の芸能を文化の過去・現在・未来を問うた作品になって目の前に現れた。それゆえに単に性格悲劇・喜劇で収まらない舞台jになった。

モリエールが極端な、過剰な人間破綻者的人物を風刺的に描いたのに対し、嘉数は真摯に御冠船芸能に固執するペーチンを持ってきた。組踊や古典舞踊から雑踊りが登場するまでの物語の推移の中に親子で茶売りの庶民の娘を恋するというモリエールと似た恋の筋書きを踏襲しながら、その対極は古典芸能と「時代は感性に運命をもたらす」と詩に書いた堀川正美のように、日本への併合、同化の波の中で新しい芸能を生み出していった御冠船継承者(伊野波親方)の対立する姿を描くことにより、芸や文化の継承の在り方を問うた筋書きになったのである。

明治16年、廃藩置県(琉球処分)から4年後の芸能継承者の芝居小屋を舞台に登場した芝居小屋の組踊に飽きていく町人や村人の姿がある。新しい時代の息吹を浴びて観衆の好みも変わっていく。もはや同じ冠船踊りに退屈し、飽き足らない感性をもとめる庶民の登場である。百姓たちは御冠船踊がよくわからないのではなく、1800年代から村々でも組踊は村踊りの中で上演されたりしているので、ただ人々は自らの感性にあう舞台をメディアのように求めていった大きな時代の変動期だった。その中で新しい時代の変容に身を沿わすことができないペーチンの頑固さが、滑稽に描かれるが、しかし、実はその頑固に彼が固執した芸能が、時代を超えてこの沖縄の時空で大きな基軸になっていったのも事実なのだ。無視されていた古典芸能は、しかし、静かに浸透してはいたのだ。

雑踊に喝采する聴衆の姿がある。恋の勝負は、時代に柔軟に対応した息子に分配が上がった。ペーチンは頑固な信念の中で新しい芸能を認めていく。娘や息子の恋や結婚を容認していくのである。玉城盛重対伊良波尹吉のイメージがするが、どの芸術でも弁証法的に推移する流れがある。そして歩き続けるのである。つまずきながらも、転びながらも、蹴りながらも歩く。冒頭の歩く場面は印象的だった。そして花道も使い、廻り舞台も使った舞台は展開が面白かった。舞台裏をまた見せる手法(手口)は新しい。プロローグの歩く場面に「ペーちん音頭」のような調べはウチナーグチと日本語を並べた自由詩で、7575調があるかと思えば8886も混じっている。自由詩形の面白さで流れる。振付の踊りもまたメロディーがポップ調ならそれにものせられる振付である。斬新な面白さを随所に見せた。チラー小が観客席に座るなどの場面もあり、劇場内が芝居小屋の雰囲気を作った。

芝居小屋の地方宮城里之子親雲上(宮城茂雄)は歌・三線、筝と自在にこなし、ナレーターの役柄もこなす。それは金城真次(金城里之子親雲上)も同じである。自在になんでもこなす冠船芸能の担い手の重厚さがそこからも浮かび上がった。金松(平敷勇也)も真鶴(花岡尚子)も樽金(賀陽田朝裕)もいいね。伊野波親方(高宮城実人)は台詞がどうも三枚目的に聞こえてくるのが気になった。チル小の呉屋かなめはマルムンが飛びぬけてうまい女優(舞踊家)だ。脇役に見えて主役を喰う才気ばしった芸を自然体でやってのけているように見える。ああ石川筑登之(石川直也)のひょうひょうとしたキャラも面白い。

そして宇座仁一さん(佐久眞親雲上)の伊野波節は口髭をつけたままで面白い。組踊の阿麻和利の形を披露するなど、中心でどかっと演じている。恋するペーチンの恋の行く手も気になるが、かつての女形の阿嘉親雲上さんもまたマルムン的味わいでホットな笑をとり続ける。従来の極端なキャラクターの演出を抑えた今回の喜劇はまさに喜劇でこの間の舞台はどちらかというと笑劇だったのだとわかる。大いに笑えばいいのではない。嘉数さんの思考の深まりを感じさせた。

幸い『脚本』をいただいたので、もう少しじっくり検証したいと考えている。今からやんばるに行かなければならず、急いで備忘録のつもりで打ち込んでいる。明日また訂正なりしたい。

嘉数さん、出演したみなさま、んん、渋みのあるいい喜劇を見せていただきました。琉球・沖縄藝能論のような面白さでした。セリフで気になったところ、や白いメイクなど(自然体のメイクがいい)、また演技などについても書きたい。ありがとう。輝く沖縄藝能の明日はそこにあるのね!

 


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