若冲 澤田瞳子
先日、すこし書きましたが
1700年代の稀代の画家、伊藤若冲の生涯を描いた本です
史実とは若干違うという話ですが、若冲自体が不思議な人で
ほとんど、記録が残っていないそうです
なもんで、歴史家でもある澤田さんが、残された史実に基づいて
足りない分をフィクションで補って書かれたそうです
あらすじから
1700年代初頭、京都の錦市場の大きな青物問屋、枡源の
長男として生まれた源左衛門(若冲)
母親のお清にいびられた妻のお三輪が自死したことで、
助けられなかった自分を責め、画業に打ち込む
菩提寺の相国寺院主の大典が陰になり日向となり源左衛門を応援し
若冲という名を授けます。
そんな若冲を支えるのが末妹のお志乃でした
一度は嫁ぐものの、出戻り生涯を通じて若冲を面倒を見ます
お三輪の弟として市川君圭が描かれています
君圭は、実在の人物で若冲の贋作者として有名だそうです
小説の中の君圭は、実の姉を殺したのは若冲だとして
その恨みを晴らすために若冲の贋作を描き続けます
若冲は弟に家業をゆだね、自分は隠居し画業に打ち込み
誰もまねできない技術を編み出し、唯一無二の画を書くのですが
その実力が京都の町で評判になっていくに伴い
君圭の恨みの大きさも比例して大きくなっていきます
実家、錦市場の存続問題に巻き込まれ、意外と責任感を発揮して
解決に向けて取り組む姿や
禁中の宝暦事件にまつわる公家とのかかわり、
天明の大火で焼け野原となった京都などが描かれています。
ある、祇園祭の夜
若冲の書いた屏風絵が商家の店先に飾られてます
また別の商家には若冲の画風そっくりな屏風が飾られてます
それを見た若冲は自分が書いたものではないとわかるのですが
それは君圭の作に違いないと悟り
そこまで至った君圭の思いを知る若冲でした
当時の円山応挙や池大雅、与謝蕪村や谷文晁といった絵師の名前も出てきますが
人嫌いの若冲は誰とも交わることなく生涯を静かに閉じます
全編を通じて、妻を失った自責の念で作画に打ち込む若冲
その思いから、若冲の描く絵には色彩のきらびやかさがあるものの
どこかうら寂しさや悲しみを感じてしまう、その理由を描いてます
女性の書く小説にありがちな、独りよがりな文体ではなく
どっしりと落ち着いた、腰の据わった文章で構成もしっかりしている
かと思えば、女性ならではの心情描写も秀逸で
いい小説でした
ぜひ読んでみて
若冲の作品が見たくなること請負です