乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負とは、世間の注目を集め、一気に人生の勝利者になるということ、実際、本を出版し、テレビに出演し、いくつもの会を主催している、マサイ族の第2夫人とは言え、そんなヒマがあるのか。
世の中にはハラにすわった人がおり、不平ばかり言っているインテリとはちがい、ここイチバンに勝負をかけることを知っている、勝海舟の「氷川清話」の中に、
「大坂でぬすみをはたらき 江戸にやってきて ほとぼりが冷めたころに大坂にもどる盗人がいた」
さらに、
「あの最中に おとこの急所をつぶし 財布を盗むおんなが・・・」
テレビの番組だけではもったいない内容のように思えたが、これも計算のうちか。
マサイの男たちのイチバンの関心は牛、一日中、牛のことを考えている、だから、牛とこころを通わせることができるのかもしれない、牛のよろこび、牛のかなしみ、牛の人生・おっと牛生、牛の幸福がマサイの男の幸福であり、青い風にときめき、川の水をいっしょに飲む、日陰の休息は王者のくつろぎ・・・巨大な猛獣が襲う、一本の槍で対決する、
勇気・勇気・勇気、
血が、たぎる。
「ブーン」
ネコパンチのでっかいの、
あっという間にたたきつけられた。
二番槍が飛ぶ、
瀕死のマサイの男に、
「おまえが イチバンヤリだぞ」
「ありがとー」
血のアワが吹き上がる、
「あの世でも 友だちだぞ」
「うん うん うん」
おとことおとこの、かなしい真実。
この日本人女性は、きっと、dryな男の世界に惹かれたのかもしれない、この地球上から失われていくきっぱりとした男の世界、無口な男が、ひたすら牛を追い、家族を養う。
21世紀の世界は、それとは、ちがった方向に進んでいるようだ。