MONAのフォト・ギャラリー

写楽・・話楽・・・な日々

故国 - 外交官の家 -

2010-06-20 23:48:21 | 横浜

遠くに足音が聞こえると 僕はベッドの上で 身を起こす

もしかして お母さん?

その度 思い違いに がっかりして・・・

真っ暗な部屋で 身を縮こませる

闇の中は 魑魅魍魎(ちみもうりょう)が うごめいているようだ 

母の顔は はっきりとは 思い出せない

その位 別れた時の僕は 幼かった

でも 腕の中に抱かれた温かさ

明るく 楽しげな 笑い声 

憂いを帯びた歌声は 今でも ふいに蘇ってくる 

紺碧の海と 太陽のきらめく母の故国を 後に

母と僕は 父の国へ移り住むことになった

そこは 長い冬と 短い夏の季節

感情を抑えることが美徳とされる世界


ちょうど 余りにも違い過ぎる環境に 移植された花のように

美しく咲き誇っていた母は みるみる萎れていった

心が変調をきたし 言動がおかしくなった 

周囲も 父さえも 母を持て余し始めていた

母の帰りを待ち望む気持ちが 諦めに変わり始めた頃

僕の目の前に 美しい絹のスカートが立ち止まった

良い香りがして 屈みこむ顔に 柔らかな巻き毛

「この子が 坊やね」

父と女性と僕は 新緑の並木道を散歩する

僕は 二人を残し 飛び立つ鳩を追いかけて 力いっぱい駆けていた


故国に帰った母は再婚し 幾人かの子どもに恵まれたそうだ

その後 父は亡くなり

すべてを失った僕は 父の故国を後に 新しい世界を目指し

「故郷を持たぬ男」として 流浪の人生を送ることになる 

*****

横浜山手西洋館 花と器のハーモニー 2010

外交官の家にて

お話は 創作です

*****

コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする