MONAのフォト・ギャラリー

写楽・・話楽・・・な日々

異邦人 - 山手111番館 -

2010-06-22 23:07:27 | 横浜

永遠の異邦人

それは 彼の為にあるような言葉

父は 新しい家庭を築き 

彼は フランスの学校の寄宿舎へ送られた


彼の魂は 母の国にある

たくさんの神々が 生活の中に息づき

明るい太陽が輝き 紺碧の海が広がる国

しかし 彼は その国を 一生の間 一度も訪れる事はなかった

一番大切なものは 現実と結びつけずに

自分の奥深くにしまっておけばいい

そして そこで 最愛の母は幸せに暮らしているはずだった  

父の死と 破産

彼は 学校を退学し アメリカへ行く船に乗った

底辺の下積みの仕事を いくつも経験した後 

新聞社に持ち込んだ記事が採用され ジャーナリストの道へ

社会や人間に対する鋭い切り口と 文才は 脚光を浴び

数年後には 地方紙の編集長にまで 昇進した


しかし 多民族国家のアメリカにあっても 

彼は 白人でありながら 白人社会でも異邦人

弱者には 温かい目を向けるが

虚飾と 欺瞞を憎む 社交下手だった

紀行記事を書くため 彼は 世界で一番美しいといわれる 熱帯の島を訪れた

大自然の美しさと 貧しくても 温かく 純粋な 島の人々に惹かれ

そのまま 2年間を過ごすことになる

そこで 一生を終えてもいいとさえ思った

そうであっても 時折は アメリカに戻り 仕事を得てこなければならない

ほんのしばらくのつもりで ニューヨークへ向かう船に乗り

島に別れを告げた


新しい仕事は 東洋の小さな島 「日本

遥かに 遠い まったくの未知の世界

大陸を横断する列車のなかで 彼は 届いたばかりの手紙を開いた

「 愛するあなたへ

あなたが島を出てから 毎日帰る日を数えています

そちらは寒くはありませんか? 

寒がりのあなたが 風邪をひいているのではないかと心配です

あなたが庭に植えた花が やっと咲きました

この島ほど 良い処は 世界中どこにもありません

私も みんなも あなたが戻って来るのを 心から待っています 」


>この仕事を終えたら すぐに戻るよ

彼は 心の中で呟いた

しかし 島に戻ることは 二度となかった


それから 10年余が過ぎ

島の活火山が 突然に噴火

火砕流が 島で一番大きな町に襲いかかった

町で生き残ったのは 監獄に入れられていた囚人 たった一人

彼が愛し 書き記した 町や人々は 一瞬にして 消え去ってしまった

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横浜山手西洋館 花と器のハーモニー 2010

山手111番館にて

お話は ラフカディオ・ハーンの伝記からイメージした 創作です

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コメント (12)
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