ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

外面似大蛇内心如天女~『現在七面』の不思議(その27)(まだ続く)

2009-08-24 09:47:11 | 能楽

『現在七面』終わりました~。まあまあ大過はないままで終われたのはよかったと思います。ご来場頂きましたお客さまには心より御礼申し上げます~ m(__)m

自分としては「神楽」の初段の中で左袖を掛けるのが少し甘くてハラリと落ちてしまったことと、「神楽」のあとのワカで微妙な言い間違いをしてしまったのが瑕瑾でしたが。。でも、むしろ今回はあまり足が動かなかったのが。。つらかったです。

それから maicaさん、コメントを頂きましてありがとうございます。このような自己満足的なブログですんでなっかなかコメントはつかないのですが、お喜び頂けましたようで、やりがいがあります~ 終演後、お客さまから「詞章が難解で聞いていてチンプンカンプン。あらすじは読んで知ったが楽しむのは難しい曲ですね」という感想も頂きました。現代語訳つき詞章プリントや詳細な解説を見所に配るのもよろしいのですが、紙をめくる音というのは意外に響いてしまって、ほかのお客さまの迷惑になったりしますし、また演者による解説は舞台の上で勝負すべき演者からの ややもすると「こう見てください」という誘導(強制?)になってしまうのを恐れて、東京の常設能楽堂でそれを配布することは控えて、ブログという形で発信しております。苦肉の策。。という感じもあります。。かわって今週末には ぬえは伊豆の国市で催される「狩野川能」で『望月』を舞うのですが、こちらは能をあまりご覧になる機会の少ない地方都市での公演ですので、現代語訳つき詞章プリントの配布を試みてみることに致しました。試行錯誤しながらいろいろ考えていきたいと思います。。

公演は終わったのですが、今回の『現在七面』については、本当にいろんな事を知ることができました。ひとつの曲を上演するについて、ぬえはシテ方ですから自分の流儀については仕事もわかるのですが、それにお相手してくださるおワキ、囃子方、お狂言のお流儀について、いろいろな定めがあることがわかりました。これからしばらく、このブログではそういったこの曲の約束事とか、またこの曲の背景などについて、もうしばらく書いておこうと思います。

『現在七面』のように上演が稀な曲では前述のようにお流儀同士の「申合」が完全に整っていない場合もあるのですが、シテ方は主役ではあるとしても、それらのお流儀の定めによる齟齬や矛盾をまったく無視して自己中心的に演じてしまっては舞台そのものが崩壊する。。と言っては大げさかもしれませんが、失敗は免れ得ないわけで、そういう時は最終的にはその曲を実演する役者同士が、それぞれの師匠の了解のうえで当座のすりあわせをするよりほかに方法はありません。そのために事前の申合のみならず、当日の楽屋の中でまで諸役集まっていろいろと話し合いをしました。ぬえもそこでまた型を変えたところもありますし、これはもう一つの「申合」となりました。当日の話し合いの以前から この曲には実演上の決マリとして興味深い点もたくさんありまして、今回はせっかくの上演の機会ですから、できるだけそれらが生かせるように心がけました。

たとえばワキがかぶる「花帽子」。白い布で頭を包むものですが、ワキ方でこれを着るのは『現在七面』ただ1曲だけなのだそうです。シテ方では『大原御幸』をはじめ『当麻』『身延』『俊成忠度』など、いくつかの能でシテやツレも花帽子を着けることがあるのに、おワキではこの1曲だけ。しかも常のお坊さんの頭巾である「角帽子(すんぼうし)」と「花帽子」の両用、どちらでもよい、ということになっていまして、それを知った ぬえはワキのNくんに花帽子での出演をお願いしました。ところが さすがワキ方ではレアな装束。花帽子は所蔵もしておられず、当然着付けもできないのだそうで。

じゃ『現在七面』が上演されるときにおワキ方はどうしておられるのかというと、もちろん中には花帽子もキチンと着付けられるワキ方も当然あるでしょうが、多くの場合は花帽子を所蔵していた場合であっても、その着付けはシテ方にお願いする事も多いのだそうです。

今回は所蔵されていないそうなので ぬえは自分の師家にお願いして花帽子を拝借しまして、これを申合の際にNくんに貸し出し、そのうえに ぬえが自分で作りました「装束着付けノート」というものがありますので、この中の「花帽子」のページをコピーして「せっかくの機会なので、ちょっとご自宅で自分でも着付けられるか試してみられたら?」とお渡ししました。Nくんも『現在七面』のおワキは初役なのだそうで、いろいろ研究されたようですが、ん~残念、花帽子の着付けは難しいので、結局当日、シテ方が着付けることになりました。

花帽子を着たNくん、なんだか ちょっと童顔に見えましたが演技や謡は威風堂々。立派な高僧ぶりでしたね。Nくんは若手ワキ方ではありますが、ぬえが信頼する役者さんのひとりです。彼とご一緒して『現在七面』を勤めるのも ぬえには楽しみでありました。