ガラパゴス諸島で大海で泳いでいるゾウ亀に出合った。ちょうどダビーン研究所でたくさんのゾウガメを見てゴムボートで停泊汽船に帰る途中のことだった。泳いでいる大きなゾウ亀は首をもち上げ、ボート上の我々に注意深く目を配りながら泳いでいるのだ。時として水中に体を沈め、また浮き上がっては泳ぐ。体長一メートルはあろうか。水面に首を出して用心を怠ることのないその姿に緊張の表情がうかがわれる。その真剣な眼ざしは、かつて出合った危険な体験を思い出したからのようだ。 時は夕暮れ、どこまで泳ぐのであろうか。餌を求めてか、ねぐらを求めてか、執拗について来るボートの人間どもを睨みながら、みずからが定めた意志を貫徹すべく泳ぐのであった。私がいましがた見た、飼育されている亀の仲間と思わず知らず対比した。一体どちらの亀が幸せなのか。日がな一日寝そべって暮す亀と危険を侵して大海を泳ぎ、生きる糧の餌を求めなければならない亀と。食料と引き換えに自由を奪われた一生と毎日が挑戦である一生と生き甲斐はどちらに?表情を身近に見てその心理に触れた思いがした。極めて印象的な彼の眼であった。 (自悠人)