それは突然でした。
閉店セールをするわけでなし、近所に挨拶をするのでもなく、此の住宅地に15年やっていたＮブティックが
急に消えたのです。
15年前、ご主人が衣料問屋に勤めており、確か仕入れの課長をやっていると聞いたのですが、其の奥さんが
2軒先のＴ交差点の1画を借りてブティックをやりだしたのです。
３階建ての１階の１部、こじんまりとしたお店です。
奥さんは此の地では戦前からの老舗、Ｎ呉服店の娘です。
借りたお店から３軒ほど中に入ったところに鉄筋の２階建ての家をもって居ます。親から貰ったと噂されて居ます。
商品はご主人の会社から採って居ますが、ご主人が仕入れのせいか、特に斬新のものばかりでした。
商売っ気は大して無いみたいですが、マネキンが来た服装に釣られてかこんな住宅地でも、顧客が付きだしたのです。
「あの店、旦那さんが品物をえら分ですって。奥さんはお店に座っているだけよ。」
近所の小母さんたちの口の端です。
お店は其のまま静かに続きました。
ところがご主人が急逝したのです。心臓発作とか聞きました。
「これであのお店も終わりに成るだろう。」皆がそう思っていました。
ところが此処から彼女が変身をしたのです。
今迄お店の奥に居て、人の姿も見えないような店でしたが、急に店頭に立つように成りました。
マネキンの数も増え、よそ目でも売り物商品が増えた事は解かります。
恐らくご主人の会社も応援してくれたと思います。
よくしたもので、顧客が以前より付き出したのです。
もっと感心した事は、此の店で安売りのビラなど見た事が有りません。
相変わらずこの辺の小母ちゃんたちには一寸高い、一寸ハイカラなデザイン物ばかりです。
彼女はついに今迄３小間の１つだけのお店を２小間にしたのです。
それと同時に和解素敵な店員も働くようになりました。
４年ほど前からは自分も入れて３人で此の店を回して居ります。
「Ｎ呉服のお嬢さんはやり手だ。こんなところにお店をもって、よそでは潰れるというのに、今では２人も
使って」近所の小母さんたちの賛辞になって行きます。
リーマンショックの影響は無いでしょうか。逆に混み出した気がします。
誰しもがうまくいっていると思って居たそのブティックが急に店仕舞です。
「お金残したからね。これが若し潰れるんだったら閉店大売出しをやったわよね。」
元来が此の地の人。向こう隣には挨拶くらい有ると思って居ましたが、彼女の姿は急に見えなくなりました。
家には子供が二人。でも社会人と学生です。
しかし此の内情は偶然に近くの一人に知られました。
何か其の人の親戚がやはり同じ仕入先に勤めて居たらしいです。
夫が亡くなった時に、彼女は夫の力で店を開いて居ると噂が出るのが何より嫌だったらしいです。
実家のＮ呉服店の母の助言もあり、意地になって続けました。
勿論仕入先も全面的な応援をしてノベルティなども最大限援助をしてくれました。
専門のインテリアが良く回して呉れました。
彼女は自分の力で店舗を倍のフロアにし、二人の人を雇ったのです。
リーマンショック以後、ばったり落ちた売上、これには参りました。
これは問屋も同じです。ノルマが達成できずに課長も頭を抱えていました。
其の挙句、彼女のところにも押し込みです。
売れっこない。その結果が始めての安売りでした。
10000万円均一コーナーが始まり、5000円均一になるのは時間も要しません。
此のために、客足は落ちなかったのです。
しかし其の値引きを問屋が負ってくれるわけでは有りません。
母の保証で初めて銀行から融資を受けたのです。
しかし、其の返済も、仕入れ代金の支払いも出来なくなったのは直ぐの事でした。
育ちのよい彼女には「支払いを待った」など考えも出て来ません。
以前からお店のインテリアを任せていた人と何時しか男女の中になっていました。
其の助言も有って彼女は月末近い日に急に店を畳んだのです。
商品は全部問屋が引き取りました。これで問屋はチャラにするでしょう。
銀行借り入れは実家の母が弁済すると思います。
お店は無くなりましたが、これによって損をしたのは母くらいで他に居りません。
成人の子供たちも母親の居ない家庭には慣れて居ます。
彼女は今、好きな人と暮らして、意外に幸福かも知れません。
今多い世の中の見仕舞、もう一寸過酷のものでしょう。
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閉店セールをするわけでなし、近所に挨拶をするのでもなく、此の住宅地に15年やっていたＮブティックが
急に消えたのです。
15年前、ご主人が衣料問屋に勤めており、確か仕入れの課長をやっていると聞いたのですが、其の奥さんが
2軒先のＴ交差点の1画を借りてブティックをやりだしたのです。
３階建ての１階の１部、こじんまりとしたお店です。
奥さんは此の地では戦前からの老舗、Ｎ呉服店の娘です。
借りたお店から３軒ほど中に入ったところに鉄筋の２階建ての家をもって居ます。親から貰ったと噂されて居ます。
商品はご主人の会社から採って居ますが、ご主人が仕入れのせいか、特に斬新のものばかりでした。
商売っ気は大して無いみたいですが、マネキンが来た服装に釣られてかこんな住宅地でも、顧客が付きだしたのです。
「あの店、旦那さんが品物をえら分ですって。奥さんはお店に座っているだけよ。」
近所の小母さんたちの口の端です。
お店は其のまま静かに続きました。
ところがご主人が急逝したのです。心臓発作とか聞きました。
「これであのお店も終わりに成るだろう。」皆がそう思っていました。
ところが此処から彼女が変身をしたのです。
今迄お店の奥に居て、人の姿も見えないような店でしたが、急に店頭に立つように成りました。
マネキンの数も増え、よそ目でも売り物商品が増えた事は解かります。
恐らくご主人の会社も応援してくれたと思います。
よくしたもので、顧客が以前より付き出したのです。
もっと感心した事は、此の店で安売りのビラなど見た事が有りません。
相変わらずこの辺の小母ちゃんたちには一寸高い、一寸ハイカラなデザイン物ばかりです。
彼女はついに今迄３小間の１つだけのお店を２小間にしたのです。
それと同時に和解素敵な店員も働くようになりました。
４年ほど前からは自分も入れて３人で此の店を回して居ります。
「Ｎ呉服のお嬢さんはやり手だ。こんなところにお店をもって、よそでは潰れるというのに、今では２人も
使って」近所の小母さんたちの賛辞になって行きます。
リーマンショックの影響は無いでしょうか。逆に混み出した気がします。
誰しもがうまくいっていると思って居たそのブティックが急に店仕舞です。
「お金残したからね。これが若し潰れるんだったら閉店大売出しをやったわよね。」
元来が此の地の人。向こう隣には挨拶くらい有ると思って居ましたが、彼女の姿は急に見えなくなりました。
家には子供が二人。でも社会人と学生です。
しかし此の内情は偶然に近くの一人に知られました。
何か其の人の親戚がやはり同じ仕入先に勤めて居たらしいです。
夫が亡くなった時に、彼女は夫の力で店を開いて居ると噂が出るのが何より嫌だったらしいです。
実家のＮ呉服店の母の助言もあり、意地になって続けました。
勿論仕入先も全面的な応援をしてノベルティなども最大限援助をしてくれました。
専門のインテリアが良く回して呉れました。
彼女は自分の力で店舗を倍のフロアにし、二人の人を雇ったのです。
リーマンショック以後、ばったり落ちた売上、これには参りました。
これは問屋も同じです。ノルマが達成できずに課長も頭を抱えていました。
其の挙句、彼女のところにも押し込みです。
売れっこない。その結果が始めての安売りでした。
10000万円均一コーナーが始まり、5000円均一になるのは時間も要しません。
此のために、客足は落ちなかったのです。
しかし其の値引きを問屋が負ってくれるわけでは有りません。
母の保証で初めて銀行から融資を受けたのです。
しかし、其の返済も、仕入れ代金の支払いも出来なくなったのは直ぐの事でした。
育ちのよい彼女には「支払いを待った」など考えも出て来ません。
以前からお店のインテリアを任せていた人と何時しか男女の中になっていました。
其の助言も有って彼女は月末近い日に急に店を畳んだのです。
商品は全部問屋が引き取りました。これで問屋はチャラにするでしょう。
銀行借り入れは実家の母が弁済すると思います。
お店は無くなりましたが、これによって損をしたのは母くらいで他に居りません。
成人の子供たちも母親の居ない家庭には慣れて居ます。
彼女は今、好きな人と暮らして、意外に幸福かも知れません。
今多い世の中の見仕舞、もう一寸過酷のものでしょう。
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