「出雲石燈ろう」
Description / 特徴・産地
出雲石燈ろうとは?
出雲石燈ろう(いずもいしどうろう)は鳥取県境港市や島根県松江市、出雲市周辺で作られている石工品です。宍道町来待(きまち)地区周辺で採取される細かい粒子からなる凝灰質砂岩の「来待石(きまちいし)」から作られています。
出雲石燈ろうの特徴は、伝統的な日本庭園に調和する味わい深い存在感にあります。「来待石」が吸水性に富み早く苔が付くことから自然と溶け合うように馴染み、古くから和の息づかいを表現するのに重宝されてきました。
長い年月とともに切り出したときの青灰色から灰褐色へと移ろい、年を経た味わいが出てくるのも魅力です。かの千利休も出雲石燈ろうのある情景に魅了されたと言われており、茶道の「わび・さび」の文化と共に広まっていきました。
暑さや寒さに対する耐久性にも優れ、今でも江戸時代に製作された出雲石燈ろうが存在しています。形状も約130種類以上と豊富で、現代においても広く全国で親しまれています。
History / 歴史
出雲石燈ろうの起源は、照明器具として用いられた奈良~平安時代に遡ります。当初は「みかげ石」が使われていたと伝えられていますが、その後に出雲地方で産出される約1400万年前に生成された凝灰質砂岩の「来待石」が使われるようになりました。
安土・桃山時代には、茶道の隆盛により「わび・さび」を感じさせる日本庭園が人気を呼び、庭園の情景に調和する石燈ろうが好まれるようになりました。
江戸時代になると、松江藩藩主がその価値を高く評価し建材用などにも使われるようになります。さらに、材料の「来待石」を藩外へ持ち出したり、一般人の採掘することを禁じる「お止石(おとめいし)」と定め、職人たちを囲い込むなどの保護政策を施行しました。
明治時代以降には造園のみならず室内装飾にも用いられるようになり、現代では海外からの需要も増え「美術品」としての高い評価を得ています。
*https://kogeijapan.com/locale/ja_JP/izumoishidoro/ より
1400万年の歴史を柔らかに彫る 出雲石燈ろう(いずもいしどうろう)
来待石(きまちいし)は1400万年前に生成された凝灰岩砂岩で、出雲一帯でしか産出されない。 この石の特長は、切り出して新しくても枯淡の趣があり、苔(こけ)がつきやすいこと。そんな来待石を原料にあの千利休にも愛された”出雲石燈ろう”は400年の歴史と伝統に培われた優雅な作品である。
石燈ろうの歴史
仏教の伝来とともに献灯用具として、石燈ろうが使われるようになった。その後時代とともに、その範囲は広がっていったが、桃山時代に入り茶道の流行とともに、庭園には石燈ろうが用いられるようになり、特に「わび」「さび」を求めた新しい燈ろうが生み出された。
とりわけ出雲地方では、松江藩七代藩主松平治郷(不昧)が保護育成し、伝統の礎となった。その伝統のある、出雲石燈ろう造りの伝統工芸士である伊藤暢保(いとうみちほ)さんにお話しを伺った。
「とにかく、石が好きなんですな。そして、もの造りが好きなんですな。」
伊藤さんは、開口一番石燈ろうの構造から説明してくれた。「石燈ろうは上から、九輪、笠、火袋、受鉢(うけはち)、竿(さお)、台の六つの部分からなっています。その形は無数にありますが、伝統的工芸品として指定を受けているものは、春日形、銀月形、虚無僧(こむそう)形、道風(とうふう)形、雪見形といった26品目です。
それに各々変化形を加えれば130種類くらいになるでしょうか。もちろんこれらはすべて頭の中に、そのバランスから細部まですべて入っています。」
伊藤さんはこの世界に入ったきっかけをこう語ってくれた。
「もともとこの地方は来待石の加工業が盛んだったんで、小さい頃から近所のじいさんが、石を加工している作業を見ておったんですが、ある時、いつものように近所の家に遊びに行った時、ある石工のおじさんが庭でつるはしをふるっていたんです。その石工さんはつるはし一本で、四角い石を見事な仏像に変身させたんですよ。そりゃ、感動しました。当時から手先が器用で、物つくりの仕事がしたいとは思っておったんですが、その石工さんのみごとな技術は何年経っても目に焼きついていましたな。しばらくしてこの道に入ったのですが、あの時の石工さんは、来待地区へ加工技術を伝えるために、松江から招かれていた伝説の名工”新出九一郎”さんだったんですよ。あの時、新出さんの技を見てなかったら今頃は全然違う道を歩いていたかも知れませんな。とにかく今でも私の目標はあの時の庭で見た、新出さんですよ」と少年のように目を輝かす伊藤さん。
天職につける至福のよろこび
「でも、やはりこの仕事は、わしの天職ですな。来待石が大好きなんですわ。粒が細やかで粘りがあって、加工しやすい上に、耐寒性、耐熱性に富んでます。それにこの色がいいでしょう。切り出した新鮮な石面は青灰色をしていますが、庭に出して、雨露にあたれば、灰褐色に変わってきます。そしてすぐに苔がつき始め、何とも言えん、古色を帯びてきます。そんなすばらしい石が、裏山から出るんですから、幸せなことですよ。」
職人冥利に尽きる瞬間
「わしは20歳にこの道に入ってもう50年近く石を彫ってきたけど、いつも曲線をいかに柔らかく出せるかを考えて彫っています。その曲線が、石燈ろう全体の調和にどう合うのか、置かれたその庭にどう調和するか、ひいては自然とどう調和するのか。それをいつも考えて彫ってきました。だけど、わしは根っからの職人ですから、手を抜いた仕事は一度もやったことはないです。やはり、一所懸命作ったものをお届けに行って、お客さんに喜んでもらう時が、最高にうれしい時ですわ。」
「この前も鳥取のお客さんが、地震で壊れてしまった石燈ろうを持って来られましてね、こう言われたんですよ。『20年前にあんたに作ってもらった燈ろうやから、やはりあんたに修理してもらいたいんや。』いやあ、職人冥利に尽きるというのはこういうことですな。」最後に後継者問題に触れた時、伊藤さんは、西日を見つめてこう語ったのだった。
「わしは、『モノを作る喜び、自分で創造する喜び』そして『自然に触れながら、自然に教えてもらうこと』これを今の子供たち、いや日本人に伝えたいんです。ただそれだけなんですよ。」
こぼれ話
厳しい検査基準をクリアして伝統工芸品に認定
出雲石燈ろうはその製品が伝統工芸品として認定されるまでに、厳しい検査基準が設けられています。
基本デザインとしては26形があり、その各部位においても寸法、仕上げ方法、彫刻の種類まで規定があります。
代表的なデザインとその名称をご紹介いたします。
朝鮮雪見形
濡鷺形
春日形
丸雪見形
金山形
最明寺形
*https://kougeihin.jp/craft/1104/ より