第220回 2019年4月9日 「多彩!絹のような輝き~兵庫 麦わら細工~」リサーチャー: 三倉茉奈
番組内容
兵庫県の城崎温泉。ここに江戸時代から伝わる優美で精巧な工芸品がある。素材は麦わら。帽子やストローとして使われた麦わらを縦に裂いて伸ばすと、絹のような光沢を放つ。これを箱の全面に貼りつけ、花鳥風月や幾何学模様をはめ込んでいく。同じ色でも、繊維の方向によって光の当たり方が変わり、濃淡や明暗が異なって見える。高級な飾り箱やアクセサリーなどで、それぞれ繊細な技を披露する職人たちを三倉茉奈さんが訪ねる。
*https://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/detail/?crnid=A201904091930001301000 より
1.城崎温泉の麦わら細工
・城崎温泉
兵庫県北部、日本海に面する豊岡市にある「城崎温泉」(きのさきおんせん)は、今から1300年前、城崎の地を訪れた道智上人(どうちしょうにん)が、病気で苦しむ人々を救うためにお経を唱え続けたところ、満願し湧き出した霊湯だとされています。
現在、80件の温泉宿が軒を連ねていて、令和2(2020)年に開湯1300年を迎えました。
・「麦わら細工」の起こり
この「城崎温泉」には、江戸時代から伝わる優美で精巧な工芸品があります。
麦わらを鮮やかに彩色して貼り合わせて絵柄を作った「麦わら細工」です。
「麦わら細工」の技法は日本では城崎にしか伝わっておらず、その色彩と絶妙な光沢は、他に類を見ない伝統的工芸品として高く評価されています。
「麦わら細工」が城崎温泉で誕生したのは、今からおよそ300年前の江戸時代中期(享保の頃)に、城崎に湯治に来た因幡国(鳥取県)の半七という職人が、竹笛や独楽などに色とりどりの麦わらを張り、宿の店先で売って宿費の足しにしたのが始まりと伝えられています。
当時から城崎温泉は人気の湯治場で、「麦わら細工」は手頃な土産として発展。
箱物や絵馬に細工したものも出来て、その美しさに魅かれたドイツ人医師のシーボルトも祖国へのお土産として買っていったそうです。
「城崎麦わら細工」はシーボルト・コレクションにも収録され、海を越えて城崎の職人の技術が知れ渡りました。
明治に入ってからは、高名な画家が城崎温泉に来遊して下絵を描いて図案を与え試作させたことから、芸術の高い作品も生まれていきました。
明治35(1902)年には、「セントルイス万国博覧会」で最高名誉賞牌を受賞したとされています。
職人も現在、職人は5人しかいないそうですが、伝統技術と新しい技法と時代色を盛った、罫紙文庫・文箱・小物入れ・名刺入れ・菓子器・切手入れなど、様々な製品が製作されています。
城崎麦わら細工伝承館 兵庫県豊岡市城崎町湯島376-1
2.かみや民藝店
「かみや民藝店」は、日本で唯一の郷土民芸品「麦わら細工」を製造販売しています。
平成29(2017)年10月17日には、「マツコの知らない世界」で、「かみや民藝店」の「名刺入れ」が紹介されています。
2代目店主の神谷勝さんは、「城崎町指定無形文化財 城崎麦わら細工工芸技術保持者」に指定され、「兵庫県技能功労賞」も受賞されています。
番組では、神谷さんに「麦わら細工」の制作過程を見せていただきました。
「麦わら細工」は全て手作業で行われています。
「麦わら細工」には、豊岡市栃江の「裸大麦」のみが使われています。
「裸大麦」は大麦の一種で、節と節(節間)が長く、弾力性があり、光沢があるため、加工に適しているのです。
その「裸大麦」の茎を様々な色に鮮やかに染め上げ、箱や色紙などに張っていきます。
シート状のものを何かに接着する場合、一般的には「貼る」という字が用いられるのですが、「城崎麦わら細工」では「張る」を使用しています。
「一面を覆う」「緩みなく引き締める」といった意味を含めるためだそうです。
神谷さんは麦わらをくわえ、湿り気を加えて行きます。
これを竹べらで2つに割いて平らにします。
次に、ご飯を使って米糊を作ります。
麦わらの裏側に米糊を薄く塗り、箱に張っていきます。
麦わらは色合いが1本1本異なるので、それを慎重に選んで、蓋だけでなく側面にも張り付けます。
椿の花となる部分には赤い麦わらを使います。
麦わらを染めるのはとても大変な作業です。
麦わらの表面は「キューティクル」という角質層で覆われているのですが、この「キューティクル」には油分が含まれていて水を弾いてしまうため、まず油を取り除かなければならないのです。
油を取り除くために、重曹を入れたお湯で煮ます。
麦わらの表面に含まれる油分の量は時季により異なるため、微妙に調整が必要となります。
次に油分を取り除いた麦わらを白くするために、酢酸に浸し、その後、化学染料で染めていきます。
「模様張り」は、まず下地となる麦を張ります。
椿の花が描かれた下絵を箱の上に載せ、鉄筆でなぞり、跡をつけます。
次に、麦わらについた線に沿って切込みを入れていきます。
切り取った部分に、象嵌という技法のようにはめ込むパーツに薄く糊をつけて張っていきます。
遂に椿が完成しました。
麦わらを原料とした「麦わら細工」は、使い込むほどに、絹のように滑らかな手触りと上品なつやが飽きのこない風合いを醸し出します。
「かみや民藝店」では、平成16(2004)年、皇太子殿下(現・天皇陛下)ご夫妻に、愛子様誕生祝いとして「大文庫・コウノトリ」を献上したそうです。
コウノトリは幸運を運ぶ鳥であり、赤ちゃんを運んでくれるとも言われています。
豊岡市では、「コウノトリと共に生きる豊岡」をスローガンにコウノトリを絶滅から救おうと、昭和40(1965)年よりコウノトリの繁殖などを行っています。
なお「かみや民藝店」では、ポストカードやブローチ、ジュエリーボックスなどの麦わら細工の体験が出来ます(約60分~90分)。
かみや民藝店 兵庫県豊岡市城崎町湯島391
3.かみや民藝店 三代目・神谷俊彰さん
現在、伝統的な絵柄だけでなく、緻密で幾何学模様を施す技法も生まれています。
かみや民藝店の三代目・神谷俊彰さんは、伝統的な技法を守りながら色の組み合わせなど、現代的な感覚を盛り込んだ作品を作っています。
これを「菱張り」と言います。
まず「キカイ」という神谷さんお手製の道具で麦わらを細く割きます。
次に、色の異なる麦わらを張り合わせ、米糊を塗って指先に挟んで整えます。
これを箱に張り付ければ、菱形の外枠が完成です。
次に菱形の内側の網目模様へ。
今度は太い麦わらと細い麦わらを15本張り合わせて、糊を塗ります。
細い麦わらを挟むことで強度が増し、またアクセントにもなります。
横一列に和紙に張ってシートにしたら、縦に裁断して短冊状にします。
極細の短冊をずらして網目模様を作り、これを菱形の枠の内側にはめ込んだら、完成です。
4.麦わら細工のアクセサリー
麦わらを使ったものには他に、指輪やピアス、ネックレスといった「アクセサリー」もあります。
なないろの友井田千穂さんの作るアクセサリーは、伝統的な幾何学模様が美しく、麦わらの鮮やかな色合と光沢はメタリックで現代的な印象があります。
前野惠子さんは麦わらで編んだ指輪作りの名人です。
お父様の前野次郎さんは、「麦せん民芸店」を営む傍ら、「伝統工芸・麦わら細工」の保存振興に努められた方でした。
麦わらの指輪は、明治の初め頃に気軽な土産にと女性達が作り始めました。
材料は、赤と白の麦わらです。
赤い麦わらは先端を細く割いたものを使います。
前野さんによると、大切なのは麦わらを常に湿らせておくこと。
乾くと割れたり折れたりしてしまうからです。
赤い麦わらを指のサイズに合わせて輪にし、次にその輪の隙間に白い麦わらを差し込んで編み込んでいきます。
赤い麦わらと白い麦わらを交互に編んで模様を作り、先端を内側に差し込んで、完成しました。
むぎせん民芸店 兵庫県豊岡市城崎町湯島378
*https://omotedana.hatenablog.com/entry/Ippin/Hyogo/mugiwarazaiku より
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