アンティークマン

 裸にて生まれてきたに何不足。

天国に一番近い島の資源の呪い

2009年10月15日 | Weblog
「天国にいちばん近い島」…懐かしい。1966年出版の旅行記ですから、50歳を過ぎた人でなければ知らないんじゃないかな。著者は、森村桂。作家の豊田三郎の娘さんです。本のタイトルが衝撃的、どこの島のことだろう?と、誰しもが思います。そして本を買って読む…読んでいるうちに…ありゃ?何だか違うぞ…と、なる。

 天国に近いのだから、たくさんの花が咲き乱れ、マンゴー、バナナ、パパイヤ、ドリアン、ドラゴンフルーツ…たわわに実っている。一日中木陰で談笑して暮らしていける。猛獣や毒蛇、害虫もいない…それが天国にいちばん近い島…その島の様子の紹介旅行記と思いきや、少々違う。舞台はニューカレドニア(フランスの統治国)。テーマは、「夢と現実のギャップ」。
 天国に一番近いという意味は、花やマンゴーがあり、働かなくてもいいというものではなく、現地の人達との心の交流…読み取り方は様々あっていいです。私のとらえ方で、大きく外れてはいないと思います。つまり、人々との交流があれば、どこであっても天国に一番近い。そこが、たまたまニューカレドニア島だったので、天国に一番近い島…。

 もう30数年も前のことですが、私もニューカレドニアへ行きました。主目的地は、ニューヘブリデスでした。日本からニューヘブリデスへの直行便がないので、ニューカレドニアで乗り換えなければなりませんでした(現在も同じ)。そのため、降り立ったのです。「天国にいちばん近い島」をこの目で見たいと思ったこともあり…。

 飛行機がニューカレドニア上空へさしかかったとき…正直、愕然としました。
 島を取り巻く珊瑚礁の海…半分はコバルトブルーでしたが、あとの半分は、黄土色。魚が住めるような海ではありませんでした。島全体が(四国ほどの面積)黄土色にかすんでおりました。これが、天国に一番近い・・・誰もが、愕然とするんじゃないかなあ。

 どうして黄土色の海と陸地になっていたか・・・?
 ニューカレドニアは、レアメタルのニッケル、コバルトの産出国。ニッケル埋蔵量は世界第2位、生産量で第5位。このニッケルの露天掘りなのですが、深く掘るのではなく、広範囲に地表を削り取る方式。つまり、黄土色の台地が広がっていく。生態系?住むところが削り取られるのですから…生き物も抹殺されていくわけです。そして、雨が降ると泥が珊瑚礁の海へ流れ出す。海は黄土色に染まって行くわけです。海洋生態系?泥の海で生きられる生物…僅少でしょう。

 あのときの、死んだような海と陸は、今どうなっているか?30数年経っている。天国に一番近い島なのですから、当然修復されているはず・・・。
 ところが、現在は、「見る影もなくなっている」という。世界最大のニッケル鉱山の開発…採掘場、製錬所そして廃棄物堆積場が建設されている。状況は、30数年前、私が目撃したニューカレドニアよりさらにひどくなっているという。

 鉱山の汚染された廃水は、多量の魚を死なせた。先住民族(カナック人)の文化と伝統も破壊されてきた。そして、フランス政府、ニューカレドニア行政府を味方につけている巨大資本は、1年に、ニッケル、コバルトを精錬するために、鉱石を500万トン掘るという。
 ニッケル鉱山は、あと28年ほど掘れる。その後は?荒廃した土地と死んだ海、破壊された生態系が残る。人々には、貧困が待っている。
 天国に一番近い島の悲劇号は、150年前から出帆していた。その間、停泊することもなく…。

 アフリカには、「資源は呪い」という言葉がある。豊富な資源を持つニューカレドニア。人々は呪われてしまった。資源さえなければ、幸せに暮らせたかも知れないのに。
 天国に一番近かった島、地獄に一番近い島になっている。