1970年
石の上にも三年。甲斐はその三年目の昨年後半に、やっとチャンスをつかんだ。待望のベンチ入りがかなった。「甲斐はなかなか見どころのあるヤツだ」と先輩の間では評判がいい。ポジションは遊撃手。島原キャンプでは軽快なプレーをみせただいま売り出し中。長所は肩が強いことだ。とくに二塁ベース寄りの打球処理と速いモーションからの送球はあざやかだ。「こんないいショートがいるとは知らなかった」と関東、関西からやって来る野球評論家を驚かせている。また、西鉄内野陣の共通した欠点は、野手の正面を襲う打球処理だが、甲斐は二軍時代に仕込まれた思い切りのいい突っ込みでうまくさばいている。「守備なら不安なし」稲尾監督もタイコ判を押しているほどだ。遊撃には一年先輩の浜村ががんばっている。「とても浜村さんにはかないませんよ」と甲斐は遠慮してみせた。それも徹底している。「なにかにつけてひっ込み思案なんです。性格なんですね。だから人を押しのけてもといった気持ちになれない。弱いのですよ。それに無口で…」そういえば守っていても、ほとんど声を出したことがない。「でも、もうそれは反省しました」という。昨年の暮れ、滝内コーチに「そんなことでは、一流プレーヤーにはなれん。せっかくの素質をお前は自身でつぶしている」とこっぴどくしかられたからだ。島原キャンプの甲斐の打力の向上を最大の課題としている。ビシッー宿舎国光屋旅館の横庭にあるサウンドバッグをにらみつけながら、力いっぱいのスイング。しかし、東田などのスイングとは随分と音が違う。「馬力のないことがうらめしい」そうだ。177㌢の身長にくらべ体重は70㌔。「少なくとも80㌔の体重がほしい。そうなれば、でっかいホームランも打てるのに…」とこぼす。馬力はいまさら望めそうにないが、足の速さはチーム一、二を誇っている。日南高時代も俊足で鳴らしたそうだ。そんなことから馬というニックネームがつけられた。「もっとも、ぼくの顔も馬に似ていますが…」よく見ればポニー(小馬)の表情。「ことしは平和台でも走りまくりますよ。だから大いに宣伝してください」プロ意識にも目覚めたようだ。「ことしは勝負の年。あつかましいけど浜村さんと競争してみます」とヤングライオンズの鼻息は荒い。
石の上にも三年。甲斐はその三年目の昨年後半に、やっとチャンスをつかんだ。待望のベンチ入りがかなった。「甲斐はなかなか見どころのあるヤツだ」と先輩の間では評判がいい。ポジションは遊撃手。島原キャンプでは軽快なプレーをみせただいま売り出し中。長所は肩が強いことだ。とくに二塁ベース寄りの打球処理と速いモーションからの送球はあざやかだ。「こんないいショートがいるとは知らなかった」と関東、関西からやって来る野球評論家を驚かせている。また、西鉄内野陣の共通した欠点は、野手の正面を襲う打球処理だが、甲斐は二軍時代に仕込まれた思い切りのいい突っ込みでうまくさばいている。「守備なら不安なし」稲尾監督もタイコ判を押しているほどだ。遊撃には一年先輩の浜村ががんばっている。「とても浜村さんにはかないませんよ」と甲斐は遠慮してみせた。それも徹底している。「なにかにつけてひっ込み思案なんです。性格なんですね。だから人を押しのけてもといった気持ちになれない。弱いのですよ。それに無口で…」そういえば守っていても、ほとんど声を出したことがない。「でも、もうそれは反省しました」という。昨年の暮れ、滝内コーチに「そんなことでは、一流プレーヤーにはなれん。せっかくの素質をお前は自身でつぶしている」とこっぴどくしかられたからだ。島原キャンプの甲斐の打力の向上を最大の課題としている。ビシッー宿舎国光屋旅館の横庭にあるサウンドバッグをにらみつけながら、力いっぱいのスイング。しかし、東田などのスイングとは随分と音が違う。「馬力のないことがうらめしい」そうだ。177㌢の身長にくらべ体重は70㌔。「少なくとも80㌔の体重がほしい。そうなれば、でっかいホームランも打てるのに…」とこぼす。馬力はいまさら望めそうにないが、足の速さはチーム一、二を誇っている。日南高時代も俊足で鳴らしたそうだ。そんなことから馬というニックネームがつけられた。「もっとも、ぼくの顔も馬に似ていますが…」よく見ればポニー(小馬)の表情。「ことしは平和台でも走りまくりますよ。だから大いに宣伝してください」プロ意識にも目覚めたようだ。「ことしは勝負の年。あつかましいけど浜村さんと競争してみます」とヤングライオンズの鼻息は荒い。