1953年
江戸ッ子の吉川投手は郡山に疎開中廿五年間同市の工業を卒業し日東紡郡山第一工場に入社したのである。昭和四年秋の早慶決勝戦で劇的本塁打を放ち、早稲田に勝利をもたらした佐藤茂美氏が監督として育てた選手で、高校当時抜群のスピードを持っていたところから、フォームを直せば将来大投手になれる可能性ありと見込んで手がけたものである。以来佐藤監督の薫陶をうけ、フォームの矯正に専念したがなかなか直らずコントロールに悩んでいたのであるが、一昨年小川正太郎氏(早大OB)のコーチを受けてヒントをつかみ、それからは2-3のカウントで平気でドロップを決められるような自信を得たという、この年、練習試合に上京して早大と対戦した際など彼のスピードは早大選手をアッといわせ、当時の末吉投手(現毎日)をして嘆声をもらさせたほどであった。要するに彼の身上はその速球にあるわけで、いつの試合にも彼を登板させることをさけ、つとめて彼に自信をつけさせるべく相手チームを選んでいたことは佐藤監督の思いやりであろう、従って大試合にはあまり出ていない、一昨年の都市対抗本大会には東北代表で日東紡は出ているが、常盤炭鉱からの大沢投手が、また昨秋の産別大会には寺本投手が登板している、昨夏の都市対抗東北予選では一回戦に秋田鉄道を12-1で破り、勝利投手になっているが、二回戦には出場していないかくの如く日東紡在籍中はあまり出場していないので最たる球歴はないが彼のシュートやドロップはともに威力があり、最近はシンカーを会得している。ただ彼は内気というか、気の弱いところがあるのでその面の鍛錬こそ彼の今後を決するものとなるのではないかと思う、もちろんプロ入りした以上いままでとは心構えが違うであろうから案ずるほどのこともないだろうが、何分にも女の人と話しをするのに顔を赤らめて恥ずかしそうにしている姿など、どう見ても純情すぎる青年であるとしか思われない。家庭に対してもまことに両親弟妹思いで、チームの遠征などには土産物は欠かしたことがないという、最近はカメラに熱をあげてその技術も捨てたものではないというからいい趣味であるスポーツマンの持つカンのよさが短時日に写真技術を上乗せしめたものであろう。五尺五寸、十六貫といえば標準的な体格ではあろうが、野球選手としては、殊に野球を職業とするには小さい方かも知れない、幸い非常に柔軟な体の持主であることはスポーツマンとして喜ばしい、上背がなければ上背がないなりの投球術を会得することが肝要で、特に彼の不得手のコントロールをマスターせねばならない。コントロールとはストライクを投ずることのように考えられるが、そうでなく自分の思うところに思う球をドンドン投げられることであることを記憶せねばならない、廿一歳の若さであるし、よき指導者を得れば、完投
江戸ッ子の吉川投手は郡山に疎開中廿五年間同市の工業を卒業し日東紡郡山第一工場に入社したのである。昭和四年秋の早慶決勝戦で劇的本塁打を放ち、早稲田に勝利をもたらした佐藤茂美氏が監督として育てた選手で、高校当時抜群のスピードを持っていたところから、フォームを直せば将来大投手になれる可能性ありと見込んで手がけたものである。以来佐藤監督の薫陶をうけ、フォームの矯正に専念したがなかなか直らずコントロールに悩んでいたのであるが、一昨年小川正太郎氏(早大OB)のコーチを受けてヒントをつかみ、それからは2-3のカウントで平気でドロップを決められるような自信を得たという、この年、練習試合に上京して早大と対戦した際など彼のスピードは早大選手をアッといわせ、当時の末吉投手(現毎日)をして嘆声をもらさせたほどであった。要するに彼の身上はその速球にあるわけで、いつの試合にも彼を登板させることをさけ、つとめて彼に自信をつけさせるべく相手チームを選んでいたことは佐藤監督の思いやりであろう、従って大試合にはあまり出ていない、一昨年の都市対抗本大会には東北代表で日東紡は出ているが、常盤炭鉱からの大沢投手が、また昨秋の産別大会には寺本投手が登板している、昨夏の都市対抗東北予選では一回戦に秋田鉄道を12-1で破り、勝利投手になっているが、二回戦には出場していないかくの如く日東紡在籍中はあまり出場していないので最たる球歴はないが彼のシュートやドロップはともに威力があり、最近はシンカーを会得している。ただ彼は内気というか、気の弱いところがあるのでその面の鍛錬こそ彼の今後を決するものとなるのではないかと思う、もちろんプロ入りした以上いままでとは心構えが違うであろうから案ずるほどのこともないだろうが、何分にも女の人と話しをするのに顔を赤らめて恥ずかしそうにしている姿など、どう見ても純情すぎる青年であるとしか思われない。家庭に対してもまことに両親弟妹思いで、チームの遠征などには土産物は欠かしたことがないという、最近はカメラに熱をあげてその技術も捨てたものではないというからいい趣味であるスポーツマンの持つカンのよさが短時日に写真技術を上乗せしめたものであろう。五尺五寸、十六貫といえば標準的な体格ではあろうが、野球選手としては、殊に野球を職業とするには小さい方かも知れない、幸い非常に柔軟な体の持主であることはスポーツマンとして喜ばしい、上背がなければ上背がないなりの投球術を会得することが肝要で、特に彼の不得手のコントロールをマスターせねばならない。コントロールとはストライクを投ずることのように考えられるが、そうでなく自分の思うところに思う球をドンドン投げられることであることを記憶せねばならない、廿一歳の若さであるし、よき指導者を得れば、完投
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