1965年
「ワケがホームランだって?ほんとうかい」五回で渡辺と代わり、ロッカーに引きあげた巽が腰にタオルを巻きつけたままのスタイルでとんでいった。試合が終わると別部はスラスラと口を切った。「内角ベルトへんのストレート。あの球だったらだれでもホームランを打てますよ。切れてファウルになるかと思っていた」打席に立つ前、砂押監督から「ヒットよりでかいヤツをねらえ」といわれていたそうで「たまたま監督のいうとおりなったわけ」という。ホームランは五月八日甲子園での対阪神一回戦で阪神・石川から打って以来、四か月ぶりだ。「それに孫子の兵法でみがきをかけているからな」かたわらで帰りじだくをしていた高林がこうひやかした。趣味は読書。それも孫子とか君子とかいう中国の兵法書ばかりを読んでいる。世田谷区世田谷の六畳と四畳半のアパート。その一部屋に24型の大型テレビをでんとすえてナイターまでの時間をテレビをみるか、読書で暮らす。家をたずねたチームメイトも「とにかくワケはかわっているよ。狭い部屋にでっかいテレビ。家が映画館みたいなんや」というほどた。大阪へいけば地主。大阪の北の繁華街十三大橋のそばに約二百七十平方㍍ほどの土地をもっている。「おじさんが持っているんです。共同でビルでも建てようかといっているんだ。広告会社が屋上にネオン塔をたてたといっているし・・・」「野球をやめたら?まだまだ野球でやりますよ」こういうと鼻の頭の汗をひとさし指ではじいてフロへ走っていった。
「ワケがホームランだって?ほんとうかい」五回で渡辺と代わり、ロッカーに引きあげた巽が腰にタオルを巻きつけたままのスタイルでとんでいった。試合が終わると別部はスラスラと口を切った。「内角ベルトへんのストレート。あの球だったらだれでもホームランを打てますよ。切れてファウルになるかと思っていた」打席に立つ前、砂押監督から「ヒットよりでかいヤツをねらえ」といわれていたそうで「たまたま監督のいうとおりなったわけ」という。ホームランは五月八日甲子園での対阪神一回戦で阪神・石川から打って以来、四か月ぶりだ。「それに孫子の兵法でみがきをかけているからな」かたわらで帰りじだくをしていた高林がこうひやかした。趣味は読書。それも孫子とか君子とかいう中国の兵法書ばかりを読んでいる。世田谷区世田谷の六畳と四畳半のアパート。その一部屋に24型の大型テレビをでんとすえてナイターまでの時間をテレビをみるか、読書で暮らす。家をたずねたチームメイトも「とにかくワケはかわっているよ。狭い部屋にでっかいテレビ。家が映画館みたいなんや」というほどた。大阪へいけば地主。大阪の北の繁華街十三大橋のそばに約二百七十平方㍍ほどの土地をもっている。「おじさんが持っているんです。共同でビルでも建てようかといっているんだ。広告会社が屋上にネオン塔をたてたといっているし・・・」「野球をやめたら?まだまだ野球でやりますよ」こういうと鼻の頭の汗をひとさし指ではじいてフロへ走っていった。