世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

夕顔のとき

2008年05月21日 22時35分11秒 | Weblog
私の販売員時代のことを知る人はもう殆どいない。
11ケ月と10日、私は店舗にいたんである。
服用していた薬から、その時代を私はワイパックス期と呼んでいる。

今日、隣の部署に女性先輩Sさんがやってきた。
店舗時代の先輩である。
このような店舗から本社への異動はたまにある。

今思い出すと、忘れ去りたいことばかりの私の店舗時代。
本社に来てからも、毎年、クリスマスに販売応援に行くが、他人に興味がない私はつくづく販売向きではないと思う。
高いものを勧める気にどうしてもなれない。
お客さんに迷わせて「これください」と言われない限り、どうアクションを起こしていいのか解らない。これは一生解らないと思う。

また、当時の私は狭い店舗内の人間関係(体育会系というか軍隊)にも疲れてしまっていた。

やりたい放題の女王様店長、それにかしずく主任、その日公休の人は悪口のターゲットになる。
そして、売上を取った取られた騒動。
他人の昼御飯からその人のエンゲル係数を推測する、鞄からはみ出た本を勝手に漁られるなど、今考えるだけでも女工哀史な世界だった。
向いていない仕事、悲惨な人間関係、誇りを失った私…毎日死にたいと思っていた。

そんなとき、他店からSさんが来たのである。

さばさばしていて怖そうだったが、二人で閉店作業をしている時、彼女が源氏物語について卒論を書いたことを知って我々は打ち解けた。

「〇〇さん(私)は、夕顔タイプね。モテモテでしょ?」
「え、そんなことないですよ。しかも、登場回数殆どないじゃないですか~夕顔」
そんな話をした。

瀬戸内寂聴ファンであるSさんと私は、源氏物語のマニアックな話をしながら閉店作業をしていた。
至福のときだった。

シフト制の店舗。
彼女と一緒に閉店作業ができる日は朝から楽しみであった。

しかし、仕事での彼女は厳しかった。

「文字彫りできない人は、結婚指輪を売る資格ないから」

文字彫りできなかった私は、彼女の言葉に落ち込みながら、しかしどこかでひどく納得し、自らを恥じた。
こんな風に納得させつつ叱ってくれる文化的な指導を受けるのは初めてだった。
その日の閉店後、「時間ある?」と私をミスドに連れていってくれ、ドーナッツをごちそうしてくれたSさん。

あの時、私の話を聞いてくれたこと、二人で食べたドーナッツの味、…今、思い出しただけでも涙が出てくる。

店長からいじめられたときには、然り気無く庇ってくれた。
それが原因で、Sさんが店長から呼び出しをくらったことを私は本社に異動になったあとに知った。

あれから彼女は店長になり、店舗を転々としていた。

そして、今日の再会。

今日はあまりじっくり話せなかったけれども、またあの日の閉店作業時のように、瀬戸内寂聴談義をしたい。

そして、仕事ではあのときの恩返しをしていきたいと思う。
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