先日、わが家のノートパソコンのメモリを増やした。
娘が学習教材で使うには、メモリが不足しているのだそうだ。パソコンに詳しい友人たちに聞くと、「簡単だよ」と口を揃えて言う。それを聞いて安心し、パソコンに詳しくない私も、「じゃあ、やってみよう」という気になった。
取扱説明書を見ると、ウチのパソコンには、本体の256Mバイトのメモリと、256Mバイトの増設RAMボードがついているらしい。この増設RAMボードを1Gバイトに交換すれば、余裕で学習ソフトを使うことができる。
ちょうど新宿に出る用事があったので、ヨドバシカメラでRAMボードを買った。
小さな箱を受け取ると、ちょっと意外な気がした。
ふうん、案外、軽くて小さいんだな……。
ダウンサイジングを実感したひとコマだった。
帰宅して、夕食、入浴を終えてから、メモリの増設作業に取りかかった。私以上にメカに弱い夫には、とても頼めない。ノートパソコンを裏返し、まずはバッテリパックを取り外した。次に、プラスのドライバーでネジを緩め、メモリスロットのカバーを取った。
中に見えるのは、256Mバイトの増設RAMボードである。

両端のコネクタを広げ、RAMボードを斜めに起こして引き抜いたところへ、1Gバイトのボードを取り付ける。約30度の角度で斜めに差し込み、奥まで入ったら水平に倒す。カチッという音がして、コネクタにロックされれば出来上がりだ。
あとは、メモリスロットのカバーに、バッテリパックを戻すだけ。
実に簡単だった。
へへっ、どんなもんだいっ!
私はすっかり気をよくして、鼻歌混じりにパソコンの電源を入れた。が、「ワイヤレスネットワークが見つかりません」というメッセージが出るではないか。たしかに、インターネットエクスプローラーを起動しても、「このページは表示できません」となり、ネットにつながらない。
それではと、ネットワークの修復を試みたが、一向につながらなかった。
ええ~、何で?!
取扱説明書には「増設RAMボードの取り付けや取り外しをおこなうと、インスタント機能が正常に動作しない場合があります。そのままの状態でインスタント機能を再セットアップしてください」と書いてある。
しかし、再セットアップに必要なCD-ROMがない。
もうお手上げだ。天狗の鼻はへし折られ、私はすっかりしょげてしまった。こうなると、夫に頼んで、わが家のトラブルシューター・清水さんに来てもらうしかない。
清水さんというのは、フリーのPCトラブル請負人である。どこに住んでいるかは知らないが、メールを送れば格安で直しに来てくれる、とてもありがたい人だ。
「5月1日に来てくれることになったけど、朝、もう一度、インターネットに接続できないかどうかを確かめてメールくださいだって」
実は、私たちには前科がある。ひと月ほど前にインターネットがつながらなくなり、清水さんに来てもらったのだが、彼が来たとたんに調子がよくなり、どこも直すことがなかったのだ。
あとから知ったことだが、無線LANの場合、雨雲の垂れ込めている日などはつながりにくいらしい。清水さんが来たときは、天気が回復していたので、ネットの調子もよかったのだろう。
そして、人のいい彼は、1円も受け取らずに帰っていった。
「そうね、あのときは本当に申し訳なかったもんね。でも、今回は本当につながらないから、来てもらわないとダメでしょ」
清水さんが来た日、私は仕事でいなかったので、帰ってすぐに、夫に成り行きを聞いた。
「で、どうだった?」
「うん、あっという間に直ったよ」
「あっという間に?」
「これだってさ」
夫はパソコンの右端についている、小さなボタンを指差した。
「これ、ワイヤレススイッチっていうんだって。これがONになってなかっただけだった……」

ボタンを押すと青いランプが点灯した。これがONの状態だ。もう一度押すとランプが消え、OFFの状態になった。おそらく、私がノートをひっくり返したとき、うっかりボタンを押してしまったのだろう。
全身の血の気が、ザーッと音を立てて引いていく感じだった。私は夫に、おそるおそる聞いた。
「……それって、すごく恥ずかしいね……」
夫は、まずい料理を食べたあとのような顔で答えた。
「いやあ、ホントに申し訳なくて……穴があったら入りたかったよ」
結局、清水さんは、今回も報酬を受け取らずに帰っていったのだった。
これではまるで、イソップ寓話の『オオカミ少年』である。
羊飼いの少年が、退屈しのぎに「オオカミが来た!」と何度も嘘をつく。騙された大人たちは、最初のうちは武器を持って駆けつけるが、やがて信用しなくなる。そして、本当にオオカミが現れたとき、誰も助けに行かなかったので、羊は全て食べられてしまう、という話だ。
「インターネットがつながらない」と2回も呼ばれ、その度に徒労に終わる場合はどうだろう。ふと、わが身に置き換えて考えてみた。
もしかしたら、次は来てくれないかもしれない……。
私はちょっと怖くなった。
清水さ~ん、お願い!! 見捨てないでよー!!

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※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^(5/3更新)
娘が学習教材で使うには、メモリが不足しているのだそうだ。パソコンに詳しい友人たちに聞くと、「簡単だよ」と口を揃えて言う。それを聞いて安心し、パソコンに詳しくない私も、「じゃあ、やってみよう」という気になった。
取扱説明書を見ると、ウチのパソコンには、本体の256Mバイトのメモリと、256Mバイトの増設RAMボードがついているらしい。この増設RAMボードを1Gバイトに交換すれば、余裕で学習ソフトを使うことができる。
ちょうど新宿に出る用事があったので、ヨドバシカメラでRAMボードを買った。
小さな箱を受け取ると、ちょっと意外な気がした。
ふうん、案外、軽くて小さいんだな……。
ダウンサイジングを実感したひとコマだった。
帰宅して、夕食、入浴を終えてから、メモリの増設作業に取りかかった。私以上にメカに弱い夫には、とても頼めない。ノートパソコンを裏返し、まずはバッテリパックを取り外した。次に、プラスのドライバーでネジを緩め、メモリスロットのカバーを取った。
中に見えるのは、256Mバイトの増設RAMボードである。

両端のコネクタを広げ、RAMボードを斜めに起こして引き抜いたところへ、1Gバイトのボードを取り付ける。約30度の角度で斜めに差し込み、奥まで入ったら水平に倒す。カチッという音がして、コネクタにロックされれば出来上がりだ。
あとは、メモリスロットのカバーに、バッテリパックを戻すだけ。
実に簡単だった。
へへっ、どんなもんだいっ!
私はすっかり気をよくして、鼻歌混じりにパソコンの電源を入れた。が、「ワイヤレスネットワークが見つかりません」というメッセージが出るではないか。たしかに、インターネットエクスプローラーを起動しても、「このページは表示できません」となり、ネットにつながらない。
それではと、ネットワークの修復を試みたが、一向につながらなかった。
ええ~、何で?!
取扱説明書には「増設RAMボードの取り付けや取り外しをおこなうと、インスタント機能が正常に動作しない場合があります。そのままの状態でインスタント機能を再セットアップしてください」と書いてある。
しかし、再セットアップに必要なCD-ROMがない。
もうお手上げだ。天狗の鼻はへし折られ、私はすっかりしょげてしまった。こうなると、夫に頼んで、わが家のトラブルシューター・清水さんに来てもらうしかない。
清水さんというのは、フリーのPCトラブル請負人である。どこに住んでいるかは知らないが、メールを送れば格安で直しに来てくれる、とてもありがたい人だ。
「5月1日に来てくれることになったけど、朝、もう一度、インターネットに接続できないかどうかを確かめてメールくださいだって」
実は、私たちには前科がある。ひと月ほど前にインターネットがつながらなくなり、清水さんに来てもらったのだが、彼が来たとたんに調子がよくなり、どこも直すことがなかったのだ。
あとから知ったことだが、無線LANの場合、雨雲の垂れ込めている日などはつながりにくいらしい。清水さんが来たときは、天気が回復していたので、ネットの調子もよかったのだろう。
そして、人のいい彼は、1円も受け取らずに帰っていった。
「そうね、あのときは本当に申し訳なかったもんね。でも、今回は本当につながらないから、来てもらわないとダメでしょ」
清水さんが来た日、私は仕事でいなかったので、帰ってすぐに、夫に成り行きを聞いた。
「で、どうだった?」
「うん、あっという間に直ったよ」
「あっという間に?」
「これだってさ」
夫はパソコンの右端についている、小さなボタンを指差した。
「これ、ワイヤレススイッチっていうんだって。これがONになってなかっただけだった……」

ボタンを押すと青いランプが点灯した。これがONの状態だ。もう一度押すとランプが消え、OFFの状態になった。おそらく、私がノートをひっくり返したとき、うっかりボタンを押してしまったのだろう。
全身の血の気が、ザーッと音を立てて引いていく感じだった。私は夫に、おそるおそる聞いた。
「……それって、すごく恥ずかしいね……」
夫は、まずい料理を食べたあとのような顔で答えた。
「いやあ、ホントに申し訳なくて……穴があったら入りたかったよ」
結局、清水さんは、今回も報酬を受け取らずに帰っていったのだった。
これではまるで、イソップ寓話の『オオカミ少年』である。
羊飼いの少年が、退屈しのぎに「オオカミが来た!」と何度も嘘をつく。騙された大人たちは、最初のうちは武器を持って駆けつけるが、やがて信用しなくなる。そして、本当にオオカミが現れたとき、誰も助けに行かなかったので、羊は全て食べられてしまう、という話だ。
「インターネットがつながらない」と2回も呼ばれ、その度に徒労に終わる場合はどうだろう。ふと、わが身に置き換えて考えてみた。
もしかしたら、次は来てくれないかもしれない……。
私はちょっと怖くなった。
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