これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

ホーンテッド・ペンション

2009年05月07日 17時59分14秒 | エッセイ
 3月下旬ともなると、GWの宿泊予約をしようとしても、どこもいっぱいで断られてしまう。
 女友達と旅行するときには、たいてい私が予約係だったので、ちょっと焦った。
 かれこれ20年ほど前の話だから、インターネットで予約することもできず、情報誌を片手に、私は電話をかけ続けた。
「6名様ですか? ハイ、ご用意できます」
 写真も載っていない清里のペンションで、ようやく予約ができた。しかし、この時期に空きがあるのは、きっと不評のペンションだろう。料金が5000円台という安さも、それを裏付けているかのようだった。

 期待していなかったが、宿泊当日、私たちは予想以上のひどさに声を失った。
「うわ……きったなーい」
「この部屋の狭さは何よ」
「ベッドのカバーリングも、趣味が悪すぎる」
 照明も暗くて、今にもお化けが出そうな雰囲気だった。が、あらわれたのは幽霊ではなかった。
「……ねえ、部屋の隅にいるのは、蛾じゃない?」
「やだー、こっちには大きな蜘蛛がいるよ!」
「キャーッ!!」
 という具合に、廃業間近のため設備投資していません、というペンションだったのだ。
 当然、夕食が美味しいはずもない。
 私たちは不機嫌のまま、ほとんどおしゃべりもせずに料理をつついた。食べられないほどまずくはなかったのは、不幸中の幸いだった。

 そうこうしているうちに、食堂には、またまた別の生き物が登場した。むさ苦しいという表現がピッタリの、学生風男子8人組だった。
 こちらは20代前半独身OL6人組である。正確にいうと私はOLではないが、見た目は十分OLだ。
 この男連中が、こちらを意識して、やたらと目配せしてくるではないか……。私たちは思わず顔を見合わせ、小声で作戦会議を開いた。
「ちょっと~、またこっち見てるよ。全然タイプじゃないんだけど」
「勘弁してほしいよね」
「大体において、男8人って何よ。モテない集団でしょ」
「さっさと食べて部屋に帰ろう」
「いい? 相手にしちゃダメよ。目も合わせないように気をつけて」
 そーっと席を立った瞬間、男連中の一人が素早く近づいてきた。
 私たちはギョッとして、先を争うように出口に殺到した。遠くから、彼の声が追いかけてくる。
「あの~、よかったら、僕たちの部屋で、ぐらぐらゲームしませんかぁ……」
 つい小走りになってしまったので、最後の方は聞こえなかった。
 部屋に逃げ込むなり、私たちは乱れた息で、悪口雑言を繰り広げた。
「やだ~、信じられないっ!」
「誰が行くっていうのよ」
「もう、顔合わせたくないね」
「なにが、ぐらぐらゲームよ!」
「8人でやってるんじゃない?」
「あははは、暗ーい!!」
 そのとき、私は頭の中で別のことを考えていた。

 ぐらぐらゲームって何??

 どんなゲームなのかがわかったのは、それから10年以上過ぎ、娘が保育園児になってからだ。
 たまたま、おもちゃ屋さんに行ったら、「ぐらぐらゲーム」と書かれた箱が陳列されていた。


 こ、これは! まさに、あのときの、ぐらぐらゲーム!!

 私は好奇心から買ってみた。
 家に帰り開けてみると、逆さまになった傘が円柱に4個ついており、非常に不安定な状態になっている。どうやら、ピサの斜塔をモデルにしたようだ。参加者は持ちゴマをこの傘に順番に載せていく。バランスを失って落としたコマは、持ちゴマに加えなければならず、コマがなくなれば勝ちというゲームだった。
 それではと娘を誘ってやってみると、斜塔はうまい具合に倒れそうで倒れない。円柱が弧を描いて大きく回り、いとも簡単に載っているコマがばらまかれる。
 まずまずの盛り上がりだ。大勢でやったら、もっと楽しいかもしれない。

 ぐらぐらゲーム、やりませんか~?

 十何年も経ってから、声の亡霊につかまってしまったようだ……。



楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪
※姉妹ブログ 「いとをかし」 へは、こちらからどうぞ^^

コメント (20)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする