これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

ララ・クロフトは泥の上

2009年07月26日 20時11分51秒 | エッセイ
 去る7月12日に、本羽田干潟で採集してきたカニを、私と娘はせっせと育てている。
 干潟には満潮と干潮があるので、それと同じように、水槽の水を加減してやらなければならない。
 夜は満潮にする。水槽の下3分の1まで盛った泥の上に水を注ぎ、魚も住めるような水量まで増やす。こうすると、カニのカサカサという物音が気にならないし、カニもまた人の気配に脅えることなくくつろげるようだ。
 朝は干潮にする。水槽を傾けて、バケツの中に水を捨て、泥の上に多少の水たまりができる程度まで減らす。水がなくなったところで餌をやれば、上手い具合に食事タイムとなる。
 しかし、非力な私と娘にとって、水を抜くという作業は難儀である。なにしろ、水槽を持ち上げるだけで一苦労なのだから。
「お、重い~!!」
「お母さん、頑張って!!」
 フラフラしながら水を捨てると、まもなく腕が筋肉痛になった。
「じゃあ、今度はミキがやるよ」
 中1の娘の方が力持ちだ。フンッと気合いを入れて水槽を持ち上げ、ジャジャジャジャーと勢いよく水を流した。
「あれ? 1匹足りないよ」
 何と、ヤマトオサガニのちびっ子までが、バケツの中に入っていた。私とミキは顔を見合わせて笑い、カニを元に戻した。
 水槽は全部で4個あるので、苦労して持ち上げ、カニは流さず水だけ捨てるという芸当を繰り返していたら、二人とも朝からクタクタになった。

 水を抜く道具が欲しいなあ。

 最初に私がイメージしたものは、洗濯に使う風呂水ポンプだった。しかし、カニの水には泥が混じっている。すぐに故障してしまうような気がして、他のものを考えた。

 もっと単純で、手軽なものがあるはず……。

 記憶をたどってみると、あるものに行き着いた。冬、実家でよく使っていたこの道具である。



 それは、灯油用給油ポンプであった。
 しかし、夏真っ盛りの今、果たしてこんなものが売られているのだろうか?
 季節はずれの商品に出会える可能性のある店は、100円ショップだ。私は駅前のキャンドゥに行ってみた。半信半疑で家庭用雑貨を探してみると、あった、あった! お目当ての給油ポンプが、いともたやすく見つかった。まるで、私を待っていたかのように、1個だけがポツンと陳列されていた。

 悪いわね、私のために……。

 サッと会計をすませて、機嫌よく家に帰ったあとは、早速娘と試してみた。たしか、赤いポンプの上にあるツマミを操作したような気がする……。
「お母さん、ここにONって書いてあるよ。右にねじればいいんじゃない?」
「そうだね、やってみて」
 水槽ではなく、バケツの水で練習してみると、あっという間に水がなくなった。
「すご~い!!」
 うれしくて、ミキとハイタッチをかわした。これで明日からの作業が楽になる。

 翌朝、灯油用給油ポンプは期待通りの活躍を見せ、私とミキを唸らせた。
 干潮になって露出した泥の上に、アシハラガニのララ・クロフトがスラリとした足で立っていた。このカニはハサミが1個しかないのだが、敵と思われる者には恐れず立ち向かっていく、勇敢で強いメスである。映画『トゥーム・レイダー』で、アンジェリーナ・ジョリーが演じたララのように、美しく妖しくセクシーだ。
「ララちゃ~ん、ゴハンですよぅ」
 ミキが甘ったるい声で話しかけ、メダカの餌をパラパラと撒いた。ヤマトオサガニやクロベンケイガニだとなかなか気づいてくれないのだが、賢いララはすぐに反応し、ひとつしかないハサミを使って器用に食べ始める。落ちている餌をつまみ上げ、口に運び、また拾っては口に入れる。その繰り返しだ。

MVI_1334.AVI


「かわい~♪」
 私もミキも、ララの食事風景に癒される。
 苦労も多いが、カニの飼育は面白い。



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コメント (28)
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