娘のミキが、たびたび咳き込むようになったのは、1歳の冬からだ。
かれこれ12年ほど前の話だが、夜中にコンコンやられて気になっていた。
近くの小児科で診てもらうと、「風邪ですね。ではお薬を」とお決まりの抗生剤が処方される。しかし、一向に治らないので、思い切って別の医院を訪ねることにした。ここは、同じ保育園のママさんたちが「待つけれど、診察が丁寧で親切」と言う評判のよい医院だ。運転手の夫と一緒に診察室へ入った。
「風邪って言われたの? これはきっと喘息だよ」
衝撃的な医師の診断に、私も夫も息を呑んだ。
「喘息ですか? 鼻水も出ているんですけれど」
「アレルギー反応で出ることもあるからね。この子、アトピーでしょ」
医師は、吸入薬を使うほどひどくはないから、抗アレルギー剤に切り換えて様子を見てはどうかと言った。
「いくら抗生剤を飲んでも無駄だからね」
話し出したら止まらないタイプなのか、マシンガントークの話題はいつしかアトピーに移っていた。彼は皮膚科の診療もするのだ。
「皮膚科はどこで診てもらっているの?」
「ああ、○○先生のところだね。あの先生は大学の後輩だから、よく知ってるよ」
「じゃあ、薬がダブらないように、ウチでは×××だけにしておきます」
やっと終わったときには、診察開始から15分ほど経っていた。
こりゃ、待ち時間が長いわけだ……。
私は妙に納得し、医院をあとにした。
5日後、薬が切れたので夫に頼み、娘を医院に連れて行ってもらった。
「おかえり! 長くて大変だったでしょ」
夫をねぎらうと、予想に反する返事が返ってきた。
「今日はね、30分待ったけど、診察は1分もかからなかったよ」
「え? そんなに早かったの?」
「うん。あの先生、男が嫌いみたいだ。俺の顔を見もせず、『じゃあ薬出しておきますから』で終わりだよ」
「マジ!? ひどいね~!」
「待合室で見てたけど、父親が診察室に入るとすぐ出てくるんだよ。でも、母親のときはなかなか出てこないから、間違いないと思う」
そうか、あの長い待ち時間は、お母さん方と過剰なコミュニケーションを取る時間だったのか。ならば、どの家もお父さんが子供を診せに来れば、待ち時間が短くなっていいのに。
それから間もなく、私はインフルエンザにかかった。仕事から帰ったときにはすでに熱が高く、寝ていても一向によくならない。頭をあちこちから小突かれているような痛みと、全身の倦怠感で、横になっているのに全然楽にならない。頭痛がひどくて眠れないのは、生まれて初めての経験だった。
翌朝、夫が私を、娘と同じ医院に連れて行ってくれた。ここは小児科、内科、皮膚科の診療をしているのだ。受付で、インフルエンザらしいと申し出ると、待合室から処置室に移された。ベッドで点滴を受け、そのまま眠ってしまったのだが、昼前に目覚めたときにはだいぶ楽になっていた。
しかし、夫の姿が見当たらない。
「笹木さん、ご主人は家で連絡を待ってますから、診察が終わったら電話してくださいね」
えっ、帰っちゃったの!?
軽くショックを受けたが、看護婦さんの言う通りに電話を入れた。迎えに来た夫が言うには、「しばらくかかりますから、一度お帰りになってお待ち下さい」と追い返されたらしい。「シッシッ」という雰囲気だったのではないだろうか。
現在かかっている産婦人科の先生にも、似たようなところがある。
不妊外来なので、夫の精子を検査することになった。15年前に通っていた病院では、その検査をするとき、夫を連れてくるように言われていた。しかし、先生に聞いてみると、ピシャリと一言、「いらないです」との返答が……。
「忙しくて大変でしょうから大丈夫ですよ」というニュアンスではなく、「検体さえあればいいんだから来ないで」という印象だった。
うーん、気のせいだろうか。
もしや、ここも男子禁制なのかもしれない。

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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
かれこれ12年ほど前の話だが、夜中にコンコンやられて気になっていた。
近くの小児科で診てもらうと、「風邪ですね。ではお薬を」とお決まりの抗生剤が処方される。しかし、一向に治らないので、思い切って別の医院を訪ねることにした。ここは、同じ保育園のママさんたちが「待つけれど、診察が丁寧で親切」と言う評判のよい医院だ。運転手の夫と一緒に診察室へ入った。
「風邪って言われたの? これはきっと喘息だよ」
衝撃的な医師の診断に、私も夫も息を呑んだ。
「喘息ですか? 鼻水も出ているんですけれど」
「アレルギー反応で出ることもあるからね。この子、アトピーでしょ」
医師は、吸入薬を使うほどひどくはないから、抗アレルギー剤に切り換えて様子を見てはどうかと言った。
「いくら抗生剤を飲んでも無駄だからね」
話し出したら止まらないタイプなのか、マシンガントークの話題はいつしかアトピーに移っていた。彼は皮膚科の診療もするのだ。
「皮膚科はどこで診てもらっているの?」
「ああ、○○先生のところだね。あの先生は大学の後輩だから、よく知ってるよ」
「じゃあ、薬がダブらないように、ウチでは×××だけにしておきます」
やっと終わったときには、診察開始から15分ほど経っていた。
こりゃ、待ち時間が長いわけだ……。
私は妙に納得し、医院をあとにした。
5日後、薬が切れたので夫に頼み、娘を医院に連れて行ってもらった。
「おかえり! 長くて大変だったでしょ」
夫をねぎらうと、予想に反する返事が返ってきた。
「今日はね、30分待ったけど、診察は1分もかからなかったよ」
「え? そんなに早かったの?」
「うん。あの先生、男が嫌いみたいだ。俺の顔を見もせず、『じゃあ薬出しておきますから』で終わりだよ」
「マジ!? ひどいね~!」
「待合室で見てたけど、父親が診察室に入るとすぐ出てくるんだよ。でも、母親のときはなかなか出てこないから、間違いないと思う」
そうか、あの長い待ち時間は、お母さん方と過剰なコミュニケーションを取る時間だったのか。ならば、どの家もお父さんが子供を診せに来れば、待ち時間が短くなっていいのに。
それから間もなく、私はインフルエンザにかかった。仕事から帰ったときにはすでに熱が高く、寝ていても一向によくならない。頭をあちこちから小突かれているような痛みと、全身の倦怠感で、横になっているのに全然楽にならない。頭痛がひどくて眠れないのは、生まれて初めての経験だった。
翌朝、夫が私を、娘と同じ医院に連れて行ってくれた。ここは小児科、内科、皮膚科の診療をしているのだ。受付で、インフルエンザらしいと申し出ると、待合室から処置室に移された。ベッドで点滴を受け、そのまま眠ってしまったのだが、昼前に目覚めたときにはだいぶ楽になっていた。
しかし、夫の姿が見当たらない。
「笹木さん、ご主人は家で連絡を待ってますから、診察が終わったら電話してくださいね」
えっ、帰っちゃったの!?
軽くショックを受けたが、看護婦さんの言う通りに電話を入れた。迎えに来た夫が言うには、「しばらくかかりますから、一度お帰りになってお待ち下さい」と追い返されたらしい。「シッシッ」という雰囲気だったのではないだろうか。
現在かかっている産婦人科の先生にも、似たようなところがある。
不妊外来なので、夫の精子を検査することになった。15年前に通っていた病院では、その検査をするとき、夫を連れてくるように言われていた。しかし、先生に聞いてみると、ピシャリと一言、「いらないです」との返答が……。
「忙しくて大変でしょうから大丈夫ですよ」というニュアンスではなく、「検体さえあればいいんだから来ないで」という印象だった。
うーん、気のせいだろうか。
もしや、ここも男子禁制なのかもしれない。

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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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