これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

好きな言葉は何ですか?

2009年12月10日 21時24分59秒 | エッセイ
「先生、これに一言書いてください」
 2年前、まだ担任を持っているときに、広報委員の生徒から一枚の紙を受け取った。
 それは、3月に発行する生徒会誌の原稿だった。この高校では、1年から3年までの全クラスを紹介するページがある。
 私のクラスでは、担当の広報委員が「好きな言葉」というテーマで、一人ひとりの生徒から、寄せ書きをしてもらうことに決めたらしい。

 好きな言葉か……さて、何にしよう。
「現金」「預金」「有価証券」は、思っていても書くわけにいかない。
「服」「バッグ」「靴」「宝石」なんていうのも却下だ。
「外食」「睡眠」「温泉」なども、そぐわない。
 うーん……。
 ひとまず、他の生徒から先に回してもらうことにして、ゆっくり考えることにした。

 たった一言とはいえ、寄せ書きには性格が表れる。
 過去の生徒会誌には、こんな「好きな言葉」が載っていた。
「努力」「協力」「目標」→ 真面目で粘り強い性質を感じる。
「ありがとう」     → 素直で好感が持てる。
「友情」「友達」「仲間」→ 青春しているんだなぁ。
「仁」「道標」     → 深い……。
「一期一会」「無限大」 → 美しいけれど、ありがち。
「いっかくせんきん」  → 漢字で書けよ!

 数日後、私は委員の生徒に探りを入れた。
「どう? みんな書いてくれた?」
 彼女は机の中から、シワのついた原稿を取り出し、寄せ書きの数を数え始めた。
「にー、しー、ろー……まだ半分くらいです」
「見せて」
 私は彼女から原稿を受け取り、どんな言葉が書かれているかをチェックした。
「休日」    → 納得。
「進級」    → ウケる!
「自由」「奇跡」→ センスよし。
「黒ゴマ」   → 意味不明……。
 中には、こんなものもあった。
「働いたら負けだ」
 
 そのとき、不意に、探し求めていた言葉がひらめいた。
 単語の池から、ドンピシャリのものを見つけ出し、釣り上げる作業は、モノ書きにとっての大きな喜びである。

 私は、原稿に大きな文字で、「合格」と書いた。



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コメント (20)
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