始業式、勤務校の校長が、壇上から校務分掌の発表をした。
「1学年担任、1組××先生、2組○○先生……」
生徒は静かに聞いているが、内心、気になって仕方ないところだろう。2年、3年と続き、生活指導部のメンバーにうつったときだ。「山田道江先生」というべきところを間違えた。
「山田ミチオ先生。……失礼しました、山田道江先生」
あちこちで、クスクス笑いが起きる。言われた本人は、「あれっ!」とおどけて見せたが、男性にされるのはよろしくない。
ニコリともせず、「噛みすぎでしょ」と辛口意見を述べる先生もいて、不評だった。
しかし、私が2校目に赴任した高校の校長は、こんなものではない。着任式で何のメモも持たずに壇上に上がり、教科順に並んでいる新任者に「アンタ、誰だっけ」と聞きながら紹介したのだ。耳が遠いものだから、聞き間違えて、違う名前にされてしまった先生もいた。私は、あまりの出来事に呆然となり、全校生徒の前でバカ面を晒したおぼえがある。
そんな芸当を見せた校長は、あとにも先にも、その方しかいない。
「あはは、お母さん、間違えられなくてよかったね」
家で娘に話したら、相当ウケていた。
「そうだね。笹木サキオ、なんて言われたらイヤだもん」
ヨヨギと言われたことはあるけれど、面白いから許す。
「ミキの学校の校長先生も、スゴい間違いしたことあるよ」
娘の話によると、作文コンクールに入賞した生徒を表彰する場面だったらしい。
「すごく頭のいい子で、西川アリサちゃんていうの。銀賞だったんだよ」
そのアリサちゃんが壇上にのぼり、校長と向き合った場所に立った。校長は、凛とした声で賞状を読み上げた。
「表彰状、○○作文コンクール銀賞……」
校長は自信満々に名前を言った。
「西川アサリ」

すぐさま、生徒たちはザワつきはじめた。
「アサリだって」
「アリサじゃねーの?」
「アリサだろ、どう考えても」
しかし、校長は最後まで、失敗に気づかなかったそうだ……。
アリサちゃんには申し訳ないが、私は涙が出るほど笑ってしまった。
いや~、上には上がいるものだ。それとも、下には下が、というべきか?
「ひっひっひ、校長先生はきっと、『あさりちゃん』を全巻持っているんだね」
「うん、たぶん隠れファンなんだよ」
そうじゃなければ、こんな間違いしないでしょ。
ね、校長センセ。

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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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「吹奏楽部、全員しゅーごー!!」
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ニコリともせず、「噛みすぎでしょ」と辛口意見を述べる先生もいて、不評だった。
しかし、私が2校目に赴任した高校の校長は、こんなものではない。着任式で何のメモも持たずに壇上に上がり、教科順に並んでいる新任者に「アンタ、誰だっけ」と聞きながら紹介したのだ。耳が遠いものだから、聞き間違えて、違う名前にされてしまった先生もいた。私は、あまりの出来事に呆然となり、全校生徒の前でバカ面を晒したおぼえがある。
そんな芸当を見せた校長は、あとにも先にも、その方しかいない。
「あはは、お母さん、間違えられなくてよかったね」
家で娘に話したら、相当ウケていた。
「そうだね。笹木サキオ、なんて言われたらイヤだもん」
ヨヨギと言われたことはあるけれど、面白いから許す。
「ミキの学校の校長先生も、スゴい間違いしたことあるよ」
娘の話によると、作文コンクールに入賞した生徒を表彰する場面だったらしい。
「すごく頭のいい子で、西川アリサちゃんていうの。銀賞だったんだよ」
そのアリサちゃんが壇上にのぼり、校長と向き合った場所に立った。校長は、凛とした声で賞状を読み上げた。
「表彰状、○○作文コンクール銀賞……」
校長は自信満々に名前を言った。
「西川アサリ」

すぐさま、生徒たちはザワつきはじめた。
「アサリだって」
「アリサじゃねーの?」
「アリサだろ、どう考えても」
しかし、校長は最後まで、失敗に気づかなかったそうだ……。
アリサちゃんには申し訳ないが、私は涙が出るほど笑ってしまった。
いや~、上には上がいるものだ。それとも、下には下が、というべきか?
「ひっひっひ、校長先生はきっと、『あさりちゃん』を全巻持っているんだね」
「うん、たぶん隠れファンなんだよ」
そうじゃなければ、こんな間違いしないでしょ。
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