先日、有川浩さんの『レインツリーの国』を読んだ。
これは、中途失聴者の女性を主人公にした物語で、恋をすることの難しさや葛藤、喜びなどを描いた秀作である。通勤電車の中で、引き込まれるように読み、読了後も爽やかな気分になれた。
しかし、家では爽やかでないことが待ち受けていた。
「お母さん、右の耳が痛くて、よく聞こえないよ……」
中学から帰ってきた娘のミキが、泣きそうな顔で訴えるのだ。私は呆気にとられてしまった。
「……いつから?」
「夕方から。部活のときは我慢できたんだけど、どんどん痛くなってきたの。このまま聞こえなくなったらどうしよう……」
なんというシンクロ。こんなことがあるのだな、と妙な感心の仕方をする。
しかし、もうどこの医院も診察を終えた時間だ。明日の朝、診てもらうしかないだろう。
「どこの耳鼻科にしようか」
「原先生はイヤだ。乱暴で痛いんだよ」
耳鼻科はたくさんあるけれど、名医はなかなか見つからない。こういうときは、ホームドクターに相談するのが一番だ。夫が医師に電話をかけた。
「夜分おそれいります、笹木です。明日耳鼻科に行きたいのですが、先生のご推薦する医院があれば教えていただけますか」
整形外科や小児科なども、この先生に聞いて選んでいる。医師の勧める医師であれば、まず間違いはないようだ。
「はい、川田医院ですか。わかりました、ありがとうございます」
電話を切り、インターネットで詳細を調べた。割に近くて、歩いても30分くらいで行かれる場所だ。しかし、問題があった。
「ダメだ、明日は木曜だから、休診日だよ」
夫が絶望的な顔で画面を眺めていた。せっかく教えてもらったのに、意味がない。
「他はどう?」
「うわっ、耳鼻科は木曜休診ばっかりだよ。あそこもここも、全部休みだ」
「耳が痛いよ~!」
娘の様子を見ると、先のばしにできる状況ではない。近くの耳鼻科を片っ端から検索し、木曜日に診察している医院を探した。
「あった! 南田耳鼻科ってとこが水曜休診だから、明日はやってるよ」
ようやく、木曜でも診察する医院が見つかり、私は喜んだ。
駅前にある、聞いたこともない耳鼻科だが、何もしないよりはましだ。夫に頼み、朝イチで娘を連れて行ってもらうことにした。
診断は急性中耳炎で、抗生剤などが何種類か出たようだ。
「よかったね、診てもらえて。どんな先生だった?」
娘に聞くと、明るい声が返ってきた。
「いい先生だったよ。若くてイケメンだし」
「えっ、カッコよかったの!? 何歳くらい?」
私はつい、身を乗り出してツッコミをいれた。
「うーんと、30代くらいじゃないかな」
「芸能人だと誰に似てる?」
「そうだね……」
娘はちょっと考えて、新聞に載っていた高橋克典を指差した。
「うん、こんな感じの人だったよ」
「あらあ、いいじゃない♪」
耳鼻科だと、鼻の中を見られることもあるから、要潤や阿部寛似では二枚目すぎて、かえって尻込みする。しかし、高橋克典似ならば気軽にお願いできる気がする。
「なんだ、若い先生か」
私とミキが盛り上がっていたせいか、夫は面白くないようだ。翌日、ホームドクターのところに行き、処方された薬を見せにいった。しかし、「これなら問題ない」と言われ、すごすごと帰ってきた。
「お母さんも、耳が痛くなったら、南田先生のところに行こうっと~!」
と宣言してみたものの、耳も鼻も、いたって元気だ。
不調になったときは、休診日だったりして……。
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
これは、中途失聴者の女性を主人公にした物語で、恋をすることの難しさや葛藤、喜びなどを描いた秀作である。通勤電車の中で、引き込まれるように読み、読了後も爽やかな気分になれた。
しかし、家では爽やかでないことが待ち受けていた。
「お母さん、右の耳が痛くて、よく聞こえないよ……」
中学から帰ってきた娘のミキが、泣きそうな顔で訴えるのだ。私は呆気にとられてしまった。
「……いつから?」
「夕方から。部活のときは我慢できたんだけど、どんどん痛くなってきたの。このまま聞こえなくなったらどうしよう……」
なんというシンクロ。こんなことがあるのだな、と妙な感心の仕方をする。
しかし、もうどこの医院も診察を終えた時間だ。明日の朝、診てもらうしかないだろう。
「どこの耳鼻科にしようか」
「原先生はイヤだ。乱暴で痛いんだよ」
耳鼻科はたくさんあるけれど、名医はなかなか見つからない。こういうときは、ホームドクターに相談するのが一番だ。夫が医師に電話をかけた。
「夜分おそれいります、笹木です。明日耳鼻科に行きたいのですが、先生のご推薦する医院があれば教えていただけますか」
整形外科や小児科なども、この先生に聞いて選んでいる。医師の勧める医師であれば、まず間違いはないようだ。
「はい、川田医院ですか。わかりました、ありがとうございます」
電話を切り、インターネットで詳細を調べた。割に近くて、歩いても30分くらいで行かれる場所だ。しかし、問題があった。
「ダメだ、明日は木曜だから、休診日だよ」
夫が絶望的な顔で画面を眺めていた。せっかく教えてもらったのに、意味がない。
「他はどう?」
「うわっ、耳鼻科は木曜休診ばっかりだよ。あそこもここも、全部休みだ」
「耳が痛いよ~!」
娘の様子を見ると、先のばしにできる状況ではない。近くの耳鼻科を片っ端から検索し、木曜日に診察している医院を探した。
「あった! 南田耳鼻科ってとこが水曜休診だから、明日はやってるよ」
ようやく、木曜でも診察する医院が見つかり、私は喜んだ。
駅前にある、聞いたこともない耳鼻科だが、何もしないよりはましだ。夫に頼み、朝イチで娘を連れて行ってもらうことにした。
診断は急性中耳炎で、抗生剤などが何種類か出たようだ。
「よかったね、診てもらえて。どんな先生だった?」
娘に聞くと、明るい声が返ってきた。
「いい先生だったよ。若くてイケメンだし」
「えっ、カッコよかったの!? 何歳くらい?」
私はつい、身を乗り出してツッコミをいれた。
「うーんと、30代くらいじゃないかな」
「芸能人だと誰に似てる?」
「そうだね……」
娘はちょっと考えて、新聞に載っていた高橋克典を指差した。
「うん、こんな感じの人だったよ」
「あらあ、いいじゃない♪」
耳鼻科だと、鼻の中を見られることもあるから、要潤や阿部寛似では二枚目すぎて、かえって尻込みする。しかし、高橋克典似ならば気軽にお願いできる気がする。
「なんだ、若い先生か」
私とミキが盛り上がっていたせいか、夫は面白くないようだ。翌日、ホームドクターのところに行き、処方された薬を見せにいった。しかし、「これなら問題ない」と言われ、すごすごと帰ってきた。
「お母さんも、耳が痛くなったら、南田先生のところに行こうっと~!」
と宣言してみたものの、耳も鼻も、いたって元気だ。
不調になったときは、休診日だったりして……。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)