これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

君はあぶら粘土

2011年12月29日 20時33分34秒 | エッセイ
 子供の頃、毎日のように母の肩を揉んでいた。
 肩ひもから、少々首に近づいたところを揉むよう頼まれるが、このあたりの肉は硬くて手が疲れる。
 たとえるならば、あぶら粘土というべきか。小学生のとき、図画工作の時間に、粘土で作品を作ったことがある。袋から出したばかりの粘土は、かなり硬くて、ほぐすのに一苦労だった。いったん軟らかくなれば、扱いが楽になる。しかし、寒い冬などにはまた硬くなり、「よいしょ、よいしょ」と力をこめなければならなかった。
 母の肩は、まさに、冬場のあぶら粘土。こねて柔らかくなる頃には、親指のつけ根がジンジンしてくる。まったく、子供泣かせの肩だった。

「お母さん、勉強したら肩がこった。揉んで」
 あれから30年あまり経ち、私も母となったが、肩こりに悩まされることは滅多にない。でも、中3の娘は、しばしば「肩が重い」だの「こった」と訴える。きっと、体質が違うのだろう。
「じゃあ、ここに座ってごらん」
 イスにかけた娘の肩に手を置くと、予想外に硬いので驚いた。

 こ、これは、あぶら粘土!!

 これぞ、隔世遺伝のなせる業。母の肩こり体質は、そのまま孫娘に受け継がれていたのだ。
 そして、私にはいつも、粘土をこねる役目が回ってくる。
「肩揉んでくれないと、勉強できないよ~」
 半ば脅迫めいた肩揉みの要請に、私もほとほと疲れ果てていた。
 そんなとき、JR東日本の通販カタログ、Train Shopを見ていたら、「ラ・クーノ」というマッサージ器が載っていた。



 これだぁ~!

 私は娘をつかまえて、一気にまくしたてた。
「ねえ、これ見て! 『本格的なたたき機能に大満足』だってよ。選べる4つの自動コースに、家族みんなで使えますって書いてある。クリスマスプレゼントに買ってあげるよ」
 ときは12月中旬、クリスマス商戦の真っ只中であった。
 しかし、娘は乗り気でない。
「え~、そんなのがプレゼント?」
「なに言ってんのよ。実用的でしょ」
「このイラスト、じいさん、ばあさんばっか」



「いいじゃん、別に。じゃあ電話するよ」
 かなり強引に、私は子機を取った。
「もしもし、注文お願いします」

 注文したのが遅かったので、クリスマスから2日遅れでマッサージ器が到着した。



 1.9kgと結構重い。早速、娘が説明書を読み、スイッチを入れた。
「うー、効くぅ! これすごくいいよ」
 大きな音とともに繰り出される、たたきのパワーが強いらしい。5分経つと、ピピーッと音がして、自動的にスイッチが切れる。
「あー、スッキリした! お母さんもやってみなよ」
 娘に促され、私も肩にかけてみる。
 スイッチをオンにすると、たたき玉がゆっくり動く出した。こりとは無縁の、骨ばった肩にはちと痛い。たたくリズムは一定ではなく、早くなったり遅くなったり、強弱をつけて繰り返される。ゴリゴリと押し付けられ、結構つらくなってきた。
 そのとき、バラバラバラと一層大きなモーター音がして、石つぶてのような激しいたたきが襲ってきた。
「痛い痛い痛~~い!」
 娘は、ゲラゲラと笑い転げていた。
 ひー。
 我こそはあぶら粘土と思われる方、もしくは、たたかれて喜ぶマゾの方に、おすすめの商品である……。

 2011年の更新は、これで終わりです。ご愛読ありがとうございました。
 来年も、ご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。
 よいお年を♪



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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (18)
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