これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

歯医者の予約

2011年12月04日 19時52分48秒 | エッセイ
 7年前の勤務校で、アプリケーションソフトの講習会があるという。
 今の勤務先に比べて、前任校は自転車で行かれるほどの近さだ。ソフトにも興味はあったが、懐かしさと「帰りが楽だ」という魅力に惹かれ、申し込みをした。
 前任校から徒歩5分ほどの場所に、かかりつけの歯科がある。ちょうど、講習会の翌日に予約が入っていた。講習会の終了は5時だから、電話をしてその日の5時半に変更してもらえば、さらに楽ができる。

 待てよ……。

 しかし、私は慎重に考えた。
 私と同じように、前任校の仲間が来そうな気がする。何人か集まれば、「じゃあ、これから飲みに行こうか」となるかもしれない。せっかくの機会なのに、歯医者があったら台無しだ。念のため、やめておくことにした。
 皮肉なことに、講習会の3日ほど前から、胃腸の調子が悪くなった。どうも、内科で処方された薬が合わなかったらしい。何を食べても胃が重くなり、消化能力が落ちている。これでは飲み会どころではない。予定変更で、やっぱり講習会のあとに歯医者の予約を入れようと、電話をかけた。
「申し訳ありません。その日はもういっぱいで、予約が入れられません」
「ああ、そうですか。わかりました。では、予定通りでお願いします」
 時すでに遅し……。講習会の申し込みをした時点で、胃腸が不調だったらよかったのだが。

 そんなこんなで当日を迎えた。
 久しぶりの前任校は、古巣へ帰ってきたような安心感がある。街並みは少々変わったが、駅から迷わず到着できてよかった。
「こんにちは、ご無沙汰してます!」
「こんにちは、お元気そうで」
 思った通り、昔の同僚が来ていた。同期だったベテラン女性に、同じ学年を組んでいた若手男性、同じ科目を担当していた男性などだ。休憩時間には、昔の話や今の話に花が咲き、「参加してよかった~!」と実感した。帰りに歯医者に寄れたら完璧だったのだが、まあ仕方がない。
 だが、結果として、これでよかったようだ。
「本日は5時終了予定でしたが、早めに終わらせていただきます」
 講習会の責任者が、予想外の閉会宣言をした。時計を見ると、まだ4時半である。
 もし、5時半に予約を変更していたら、面倒なことになっていただろう。駅前に本屋はないし、歯みがきセットがないからお茶するわけにもいかない。
 何よりも、私は待つことが大嫌いだ。イライラして、気が狂いそうになったに違いない。「ツイてたみたい~♪」と鼻歌まじりで家に帰った。
 
 翌日。
 朝から強い雨が降っていた。駅まで歩くだけで、コートの袖や裾がビショ濡れになる。靴にも浸水してきて、足が冷たい。品悪く、「くそっ」と当り散らしたくなるほどの天気である。こんな日に、わざわざ歯医者まで出かけるのは、不運としかいいようがない。
 昨日に予約しても、今日にしても、どちらもハズレだったとは悲惨な話だ……。



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コメント (8)
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