これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

父の好物

2015年01月25日 20時51分49秒 | エッセイ
 1月23日は母の誕生日であった。バースデーカードと一緒に、冷凍のケーキやアップルパイ、おはぎなどを送る。
 ここで忘れてはならないのが、父への気づかいである。母の好きな洋菓子だけでなく、父の好物である「たい焼き」も入れておかなくては。



 往年のヒット曲「およげ! たいやきくん」が流行った頃からだろうか。父はときどき、仕事帰りにたい焼きを買ってきた。
「おい、たい焼き買ってきたぞ。あったかいうちに食え」
「わあい♪」
 父は働き者だった。月曜日から土曜日まで、朝6時に家を出て、帰ってくるのは9時10時。冬場は電車を降りると、思わず、外気の冷たさに首をすくめる時間となる。駅を出たところに屋台があり、ほっかほかのたい焼きが売られていたので、灯りに吸い寄せられる蛾のように、足が勝手に動いていったらしい。
 父から受け取った袋はずっしりと重く、中には紙製の箱が入っている。たい焼きの湯気でふやけ、軟らかくなった箱はまだ温かい。セロテープをはがしてフタを開けると、5尾のたい焼きが顔を出す。自分の好物は家族も好きなはずと決めつけ、「食べさせてやりたい」と思ったのだろう。娘3人は、さほどたい焼きが好きなわけではなかったけれど、「おいしい、おいしい」と大げさに喜んだ。

「荷物が着きました。ありがとう」
 母から、冷凍スイーツ到着を知らせるメールを受信する。宅配便は、ちゃんと、こちらの希望時間に届けてくれたようだ。
「早速、たい焼きをいただきました」
 続く文字を見て苦笑した。母へのプレゼントなのに、父の好きなものから食べているではないか。
 まあ、二人が楽しんでくれればそれでいい。
 そんなやり取りをしていたら、久しぶりにたい焼きが食べたくなった。
 駅前に、クロワッサン生地で作った、小さなたい焼きの店がある。餡だけでなく、カスタード、レアチーズ、チョコ、スイートポテト、キャラメルなどから10個選び、お値段は540円だ。



 見た目も味も、オーソドックスなたい焼きとは違う。
 和菓子というより菓子パンに近いけれど、これはこれで美味しかった。



 軽くてお腹にズシッと来ないから、80近い父にはこちらのほうがいいかもしれない。
 今度は私が、「食べさせてやりたい」と思う番である。
 次回はこれを、おみやげにしようっと。


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コメント (12)
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