これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

ドラミ先生

2015年01月15日 22時55分02秒 | エッセイ
 数年前のお正月だった。池袋のデパートで買い物をしたとき、見覚えのある女性とすれ違った。年齢は私より十歳ほど上で、丸い体はドラえもんの妹・ドラミちゃんのようだ。



 彼女は、きちんとスーツを着込み、洋菓子店の名前が書かれた紙袋をいくつも下げていた。

 はてさて、誰だったっけ……。

 ようやく思い出した。以前通っていた眼科の先生である。ふっくら体型や、クリッとした目とは真逆の、冷たい対応をおぼえている。当時、保育園に通っていた娘が診察室でグズると、「これじゃ診察できませんね。お帰りください」とニコリともせず背中を向ける。
 慌てて娘を黙らせ、「静かになりましたから診てください」と食い下がったことがあった。
 初めて、私がコンタクトレンズを作ったのも、この眼科である。つまり、家から近い眼科はここしかなかったのだ。
 医師が調整したコンタクトを着けると、世界が小さく見えて違和感があった。度を弱くしてほしいと頼んでも、「これ以上は無理です」とそっけない。不満でキャンセルした。
 姪にそんな話をしたら、「もっといい店があるよ」と眼鏡屋さんを紹介してくれた。レンズの種類は豊富だし、顧客の要望に気持ちよく対応してくれる。イッツ・ア・スモール・ワールドにならないコンタクトを手に入れ、今でも世話になっている。
 しかし、眼鏡屋さんの短所は、目のトラブルに対応できない点である。あるとき、レンズが曇るほどの目やにに悩まされたときがあった。こうなると、眼科に行くしかない。
 私が足を向けたのは、冷蔵庫のような女医のいる、かの医院であった。
「今日はどうされました?」
「目やにがひどくて、コンタクトレンズが見えなくなってしまうんです」
 医師はカルテをさかのぼり、手を止めてこちらを見た。
「笹木さんは、〇年前に作ったコンタクトをキャンセルされていますけど……」
 この瞬間、自分が日本一の間抜けであると気がついた。
「えっ、ええ。……実は、あのあと、別のお店で作ったんです」
「…………」
「…………」
 数秒の沈黙ののち、女医は氷点下まで下がった低い声で、「目薬を出しておきますから」と目も合わさずに言った。ピリピリと、凍てつくような診察室から解放されたときは、待合室で体を解凍したくらいだ。
 その後、駅前に別の眼科ができたため、あの医院には行っていない。でも、ドラミ先生はしっかり記憶の片隅に残っていたようだ。
 たくさんの洋菓子は、家族のために買ったものだろうか。
 きっと、家では春が訪れたように、明るく笑っていると信じたい。


    ↑
クリックしてくださるとウレシイです♪

※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする