これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

3.11に思う

2015年03月12日 21時06分30秒 | エッセイ
 入学からひと月経ったころだった。
 勤務先の高校では、5月に防災訓練が実施される。体育館で東日本大震災の映像を見ていたとき、隣のクラスのリサがふらふらと立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。顔は血の気を失って真っ白だし、涙ぐんでいるではないか。相当具合が悪そうだ。
「どうしたの? 気分悪い?」
「……はい。保健室に行ってもいいですか」
「もちろん。でも、一人で行かれる?」
「大丈夫です」
 後姿を見送りながら、引っ掛かるものを感じた。リサの出身中学はもしや……。
「あっ、被災地の中学になっていますね」
 担任に確認すると、やはり福島から東京に避難してきた生徒だった。
「ああ失敗……。思い出させちゃった」
 とたんに胃が重くなった。羊かんを丸飲みしたような苦しさだ。隣のクラスの担任も同じ気持ちだったらしい。
「しまったぁ……」
 頭を低くして、足をひきずるように歩いている。
 でも、リサはもっと苦しかったのだ。結局、その日は早退することになった。この先の防災教育では、彼女に配慮しなくてはいけない。
 東日本大震災が起きたのは2011年3月11日。その日は2年後の2013年だったが、震災の傷跡は彼女の中でくっきりと残ったままだった。普段は明るく、何の悩みもなさそうに見えるだけに気の毒である。
 彼女の親戚は、まだ福島に残っている。東京での生活は楽しいのだろうか。不自由を感じていないかと心配になった。
 そして、一年後の2014年。ここでも、震災ボランティアをテーマにした講話があった。今度は、前もってリサに「無理に見なくてもいいんだよ」と根回しすることができた。
 彼女は、ほとんど表情を変えずに答えた。
「たぶん、大丈夫だと思います」
「ホント? ツラくなったら言ってね」
「はい」
 ドキドキしながら講話を聴いていると、またもや大震災の映像が流れた。津波が引いたあとの、がれきだらけの街が映っている。リサは無理していないだろうか。
 しかし、こちらの心配に反して、彼女は立ち上がらずに話を聴いていた。その場にとどまることで、戦っているようだった。きっと、いろいろなことを思い出し、苦しかっただろうに。そして、最後まで席を立たなかった。
 これはリサの勝利である。たった一年間で、よく成長したものだと胸が熱くなる。
「やっぱり大丈夫でした」
「ああ、よかった」
 リサは、何事もなかったかのように、友人たちと体育館から出ていく。心なしか、後姿がひと回り大きく見えた。
 この子をもっと伸ばして、立派な大人に育てていくことが、私にできる復興支援なのかもしれない。
 来年の3月11日は、卒業式の前日だ。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (8)
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